第八章 トランター解放 (5)

 トリスタニア共和国同盟所領内にあるバルラント星域にある惑星トカレフ。
 首都星トランターから銀河帝国へ向かう輸送船などが、物資の補給でたまに立ち寄る程度の寂れた星である。
 共和国同盟の敗北により、ここにも連邦軍の監視艇百十二隻が派遣されていた。
 かつての行政府には、監視艇団の司令官エッケハルト少佐が、連邦軍の命を受けて行政官の任に就いていた。
 むろん政策は、連邦軍の法令にそって行われていたが、こんな辺ぴな星を訪れる中央政府役人はおらず、少佐は好き勝手放題の行政を行っていた。
 中央に納めるべき税収の一部を着服して私腹を肥やし、さらに独自の税を創設して民衆から搾り取っていた。
 行政府のすぐ近くに豪邸を建て、まるで貴族のような生活を過ごしていた。

 だが、夢のような生活も終わりを告げようとしていた。

 豪邸の一室。
 ただ広い部屋の中、大きな窓際に大きな机が置かれてあり、一人の男が書類に目を通している。
 バーナード星系連邦軍、バルラント星域監視艇団司令官、ムスタファ・エッケハルト少佐である。
 机を挟んで向かい合うように立って報告書を読み上げているのは、副官のフリーデグント・ビッケンバーグ中尉である。
 二人とも旧地球ドイツ系連邦人である。
「信じられんな……」
 報告を受けて唸るように呟くエッケハルト少佐。
 銀河帝国遠征艦隊がランドール艦隊によって全滅させられ、トランター駐留艦隊までもが敗れて、首都星トランターが奪還・解放された報がもたらされたのである。
「事実であります」
 淡々と答えるビッケンバーグ。
「どうしたもんかのう」
「と、仰られますと?」
「我々の身の振り方だ」
「そうですね。いずれ掃討作戦が始まるでしょう。この地のように、連邦軍に占領された惑星を奪還しにきます。しかし我々には、この地を放棄しても、連邦に帰る術がありません」
「だろうなあ……」
 頭を抱えるエッケハルト。
「答えは一つ。投降するしかないでしょう」
「しかし何もしないで明け渡すのも癪だ。迎え撃とうではないか」
 と言いつつ立ち上がる。
「どうせなら、綺麗に終わりたいですね」
「立つ鳥跡を濁さずと言うしな。まかせる」
「了解致しました」

 ランドール配下の掃討作戦部隊が刻々と近づいているだろうから時間は切迫している。
 ビッケンバーグは、大車輪でその作業に取り掛かった。
 惑星トカレフ住民に対して、占領政策の終了の告知。
 拘留していた旧政権の首脳陣達の釈放。
 授産施設に拘束していた女性達の解放。
 バーナード星系連邦においては、非戦闘員たる人民に対しては、丁重に扱うべき国風があった。
 それはかつて、スティール・メイスンがバリンジャー星域で見せた、惑星住民完全撤退作戦にみることができる。

 数日後、接近する艦隊の報が入ってくる。
「いらっしゃいましたね」
「おうよ、丁重にお出迎えしようじゃないか」
「戦艦を主力とした総勢二百五十隻」
「ランドール配下の同盟軍か?」
「いえ、どうやら帝国軍のようです」
「帝国軍?」
「帝国皇太子となったランドールに迎合する新派の貴族というところでしょう」
「混乱に乗じて領土を広げようという魂胆だな。ついでに戦果を上げてランドールに取り入ろうというとこだ」
「こちらの勢力は約十二隻。数の上では不利ですが」
「なあに、戦争したことのないお飾り艦隊だろう。恐れるに足りずだ。出撃するぞ」

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