第二章 デュプロス星系会戦
V  スザンナが着々と重力アシストの手順を遂行している間、後方の参謀席で退屈そう にしているジェシカだった。 「うーん……、何と言ったらいいのかしら……」  言葉が出掛かっているのだが、うまく表現できないという表情。 「どうしたのですか?」  パトリシアが怪訝そうにたずねる。 「あなた、何とも思わないの?」 「何がですか?」 「作戦参謀が主任務とはいえ、あなたも艦隊指揮を許された戦術士官でしょうが」 「そうですけど……」 「大佐で上官であるあなたが、少佐で下位のスザンナに指揮を任せていることよ。作 戦遂行中における艦隊指揮は、より上位の者が指揮を執るのが普通じゃなくて?」 「スザンナは旗艦艦隊司令官ですよ。例え階級が下位でも、職能級が上位の者が指揮 を執る。それがこの艦隊の慣例です」 「それなのよね……。普通は大佐を当てる旗艦艦隊司令に、いくら適材適所だからと いって、少佐に新任したばかりのスザンナを当てるなんて、常軌を逸脱しているとし か言えないわね」 「そこがまた提督の人となりじゃないですか。常に将来を見越して行動しているお方 ですからね。士官学校の模擬戦闘の時からずっと……」 「ああ、敵司令官を官報公表前のはるか以前から、予想的中させてその性格からすべ てを調べ上げて、模擬戦闘に勝利したというあれね。タルシエン要塞攻略の秘策もこ の頃から練り上げていたというじゃない」 「そういうことです……」  常識的には納得できなくても、将来を見越した計算の上に判断されたのであろうア レックスの決定には、誰にも口を挟むべきだとは考えない。  後方で、そんな会話が行われている間も、スザンナの操艦は続いている。 「コース設定に変更ありません」 「よろしい。これより重力アシストに突入する。全艦、重力アシスト態勢に入れ!  秒読み開始」 「重力アシスト、突入四十五秒前。進路オールグリーン、航行に支障なし」  最終カウントダウンがはじまった。 「三十秒前……5,4,3,2,1」 「全艦、重力アシスト開始!」  号令と同時に一斉に加速をはじめる艦隊。  これまでは、カリスの衛星のミストの孫衛星軌道に入るためのコースを取っていた から、カリスの重力圏から離脱するには加速が足りなかった」 「重力アシストへの投入成功。カリス重力圏離脱コースに乗りました」 「よろしい。現在のコースを維持せよ」 「了解!」  カリス重力圏離脱コースに乗り切ったということで、オペレーター達の表情から緊 迫感が消えていた。 「まずは一安心というところかしら」  ジェシカが呟くように言った。  その言葉には、次なる課題に対する思いが含まれていた。 「そうですね。あの星が、わたし達の通過を素直に認めるかです」 「ええ……」
     
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