第二章 ミスト艦隊
W  重力アシストに突入して十二分、巨大惑星の背後から赤く輝く小さな星が現れた。  カリスの衛星ミストである。  デュプロス星系において人類生存可能な星にして、カリスとカナン双方の中に存在 する唯一の衛星である。  二つの巨大惑星は周囲の星間物質を飲み込んで、三つ目の惑星どころか衛星さえも 存在しえないはずだった。  ミストは、恒星系が完成したその後に、どこからか迷い込んできた小惑星を取り込 んで衛星としたと推測されている。  実際に、巨大惑星の重力の及ばない最外縁には、いわゆるカイバーベルトと呼ばれ る小惑星群がある。そこから軌道を外れた小惑星が第二惑星カナンに引かれはじめた。 そのままでは、カナンに衝突するはずだったが、たまたま内合を終えたばかりの第一 惑星カリスによって軌道を変えられて、その衛星軌道に入った。  それがミストが衛星として成り立った要因ではないかとされている。  ミストはカリスの強大な重力によって常に同じ表面を向けている。一公転一自転と いうわけである。  その地表はカリスの重力の影響を受けて至る所で火山が噴出して地表を赤く染め上 げている。地熱を利用した豊富な発電量によって人類の生活を潤していた。 「せっかくここまで来たのに。立ち寄りもせずに素通りとはね」 「仕方ありませんよ。それより、ほら。お出迎えです」  ミストから発進したと思われる艦隊が目前に迫っていた。 「ミスト及びデュプロス星系を警護する警備艦隊です」 「警備艦隊より入電です」 「スクリーンに流して」  スクリーンの人物が警告する。 「我々は、デュプロス星系方面ミスト艦隊である。貴艦らは、我々の聖域を侵害して いる。所属と指揮官の名前を述べよ」  相手は旧共和国同盟の正規の軍隊ではないとはいえ、節度ある軍規にのっとった警 備艦隊である。  いきなり戦闘を仕掛けてくるようなことはしない。  まずは自分が名乗り、そして相手に問いただす。  それに対して襟を正してスザンナが静かに答える。 「こちらはアル・サフリエニ方面軍所属、アレックス・ランドール提督率いるサラマ ンダー艦隊です。」 「サ、サラマンダー艦隊!」  さすがにその名前を聞かされては、驚愕の表情を隠せないようだった。  スザンナが共和国同盟解放戦線としてではなく、旧共和国同盟軍の称号を名乗った のは、敵対する意思のないことを伝えたいからだった。 「我々は、デュプロスに危害を加えるつもりはありません。ただ、通過を認めてもら いたいだけです」 「これまでにも貴艦らと同じように、周辺国家の艦隊が銀河帝国へ亡命するためにこ こを通過しようとしたが、ことごとく追い返したのだ。一度でも通過を許したことが 伝われば、同様のことが立て続けに発生するだろうからだ」 「でしょうね……」  スザンナが納得したように頷く。  バーナード星系連邦に組みして総督軍に編入されるか、共和国同盟解放戦線に加担 するか、そのどちらにも賛同し得ない国家や軍隊にとって第三の選択肢が、銀河帝国 への亡命であった。  しかし帝国へ亡命するには、最寄の星系であるこのデュプロスからもかなりの道の りを要するために、補給のために立ち寄る必要があった。
     
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