第二章 ミスト艦隊
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「惑星カリスによる重力加速は順調に推移しています」
質量のあるものが存在すれば、互いの重力に引かれて接近することは、万有引力の
法則で周知の通りである。
その際における重力加速を利用して、艦隊は速度を増しつつあった。
「まもなく、重力アシスト{grabity assist}に入る。これより艦隊リモコンコード
を発信する、全艦これを受信し、旗艦サラマンダーに同調せよ」
指揮官席からスザンナが指令を出している。
重力アシストによるコース変更と重力加速は、スハルト星系遭遇会戦でスザンナが
提唱し遂行した作戦である。当の本人が指揮をとっているのだから 間違いは起こさ
ないだろうという将兵達の評判であった。
すでにデュプロスに進入していた艦隊にとっては、エンジンを吹かして軌道変更す
るよりも、巨大惑星の重力を利用した重力アシストを行った方が、移動距離は長くは
なるがほとんど燃料を使用することなくコース変更と加速ができる。
「カリスの平均軌道速度は36.37km/sです。重力アシスト加速の期待値は、相対質量
比は無視できますのでおよそ90%程度と推定され、最大32.741km/sの加速度が得られ
ます」
スザンナの副官のキャロライン・シュナイダー少尉が報告する。
彼女は、スザンナが旗艦艦隊司令となると同時に副官としての辞令を受けていた。
名だたる高速戦艦サラマンダーを擁する旗艦艦隊司令の副官に選ばれたことで、親
類縁者からも一族の誇りとして期待され、本人も大いに張り切っていた。
「ちなみに過去に地球から打ち上げられた【ボイジャー2号】では、平均軌道速度13.
0697km/sの木星に対して11km/sの重力加速を得られました」
「ありがとう」
「今回は、スハルトの時と違って燃え盛る恒星じゃないし、巨大惑星のカリスによる
一回の重力ターンで済むから楽ですね」
「でも重力が桁違いだから、少しでもコースを間違えればコースに乗り切れなくなる
わ」
「そうですけどね……」
「全艦、艦隊リモコンモードに入りました。重力アシスト遂行の準備完了です。全艦、
異常なし。航行に支障ありません。いつでも行けます」
ミルダの報告を受けて、全艦体勢での重力アシストに突入する。
「カリスとの相対距離は?」
「3.2光秒です」
「重力アシストを決行しましょう」
言いながらちらと後方を確認するスザンナ。
アレックスは姿を見せていない。
スザンナを信用して、重力アシストを任せきりにするようだ。
「コース設定を再確認せよ」
相手は超巨大惑星である。
桁外れの重力によって、ちょっと進路がずれただけも大きく進路から外れてしまう。
念のための再確認をするのは当然であろう。、
「コース設定を再確認します」