(二)事故
翌日になり、助手が出勤してくる。
「先生、おはようございます!」
返事は返ってこない。
「いないんですか?」
相変わらず室内は静かだった。
「おかしいな……鍵が掛かっていないからいると思ったのにな」
あたりをきょろきょろ見回す助手。
その視線はやがてベッドに横たわるプリンセスドールへと移行する。
ゆっくりと彼女に近づく助手。
「ほんとにこんなに綺麗な彼女なのに、どうしても目覚めさせられないとはな。このままじゃ、ほんとにセックスドールとしてしか利用価値がなくなるよな」
その時、彼女のそばに見慣れない機械があるのに気が付いた。
「あれ? これはなんだろう。先生が出したのかな」
さらに近づいていくと、その機械から出ている端子コードが彼女へと繋がっており、微かに振動していた。
「動いているみたいだな。新しい実験機械かな……」
そして正面に回った時だった。
「せ、先生!」
椅子のようなものに先生が腰掛けており、その頭部の各所に電子端末が取り付けられていた。
じっと目を閉じて、まるで瞑想しているかのような表情をしている。
「どうしたんですか? 先生、先生、聞こえますか?」
返事はない。
おそるおそる近づいて呼吸状態を確認してみる。
かすかに息をしていた。
「ほっ……。どうやら生きているみたいだ」
改めて機械を眺めてみるが、何のためのものかが判らなかった。
自分がここへ来る以前から開発していたのだろう。
ディスプレイには何やら数字の羅列が次々と表示されては消えていた。
「何かの実験中なんだろうな……自動プログラムが動いているみたいだ。しばらく様子を見てみよう。それより、彼女に食事を与えなければ」
彼女は生きている。
だから食事をしなければ死んでしまうのだ。
しかし意識のない植物状態であるから、他の者が与えてやらなければならない。
そのために彼女には胃の中に流動食を送り込むチューブが鼻から出ている。
点滴による栄養補給の方が、排泄の世話をしなくて楽なのであるが、消化器官を衰えさせないためにも、流動食による食事を与えたほうがいいのである。
そう思って食事の準備をしようと動いた時だった。
うっかりコードの一つが足に絡んでつまづいてしまう。
「あ! コードが抜けちゃった!」
あわててコードを元通りに差し込む。
しかし、すでに遅かったようだ。
機械が異常な振動をはじめ、さらに火花が飛び始めた。
「いけない! このままじゃ、電撃で先生が焼け焦げちゃうよ」
急いで先生を、機械の椅子から引きずり降ろす。