難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

プリオン病/認定基準(公費負担)

クロイツフェルト・ヤコブ病特定疾患情報診断・治療指針
ゲルスマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)特定疾患情報診断・治療指針
致死性家族性不眠症(FFI)特定疾患情報診断・治療指針

38.プリオン病

 プリオン病の分類
 プリオン病はその発症機序から,1.原因不明の孤発性,2.プリオン蛋白遺伝子変異による遺伝性,3.異常プリオン蛋白の伝播による感染性,の3 つに大きく分類される。

1.孤発性プリオン病 1 臨床症状
古典型CJD の臨床病期は一般に3 期に分けられる。
(1) 第1 期:発症は60 歳代が中心。倦怠感,ふらつき,めまい,日常生活の活動性の低下,視覚異常,抑鬱傾向,もの忘れ,失調症状等の非特異的症状。
(2) 第2 期:認知症が急速に顕著となり,言葉が出にくくなり,意思の疎通ができなくなって,ミオクローヌスが出現する。歩行は徐々に困難となり,やがて寝たきりとなる。神経学的所見では腱反射の亢進,病的反射の出現,小脳失調,ふらつき歩行,筋固縮,ジストニア,抵抗症(gegenhalten),驚愕反応(startle response)等が認められる。
(3) 第3 期:無動無言状態からさらに除皮質硬直や屈曲拘縮に進展する。ミオクローヌスは消失。感染症で1-2 年程度で死亡する。

2 検査所見
(1) 脳波
@ 非特異的な徐波化
A periodic synchronous discharge(PSD)
B 体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)でgiant SEP
(2) 脳脊髄液
@ 神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)の上昇
A 14-3-3 蛋白の上昇
(3) 脳MRI
@ 拡散強調画像またはFLAIR 画像にて病初期より大脳皮質,大脳基底核や視床が高信号
A 脳萎縮が第3 期に急速に進行する。

3 プリオン蛋白遺伝子コドン129 番の多型と異常プリオン蛋白タイプによる孤発性CJD の臨床分類
 異常プリオン蛋白は,プロテアーゼ処理後のウェスタンブロット法による泳動パターンの違いからタイプ1 とタイプ2 に分類される。この異常プリオン蛋白タイプとプリオン蛋白遺伝子のコドン129 番の多型(Met またはVal)がCJD の臨床像に影響を与えていることが明らかとなり,この2つの組み合わせにより患者は6 つのサブグループに分類されるようになった。それぞれのサブグループの臨床像を表1 にまとめた。

4 鑑別診断
 アルツハイマー病,脳血管障害,パーキンソン痴呆症候群,脊髄小脳変性症,認知症を伴う運動ニューロン疾患,脳炎,脳腫瘍,梅毒,代謝性脳症,等

5 診断基準
 簡便な検査によるスクリーニングや発症前診断は孤発性CJD では現在のところ確立していない。遺伝性であっても一見孤発性のように見える例があり,正確な診断にはプリオン蛋白遺伝子の検索が必要である。

CJD の診断基準
1. 確実例(definite):脳組織においてCJD に特徴的な病理所見を証明するか,またはウェスタンブロット法か免疫組織学的検査にて異常プリオン蛋白が検出されたもの。
2. ほぼ確実例(probable):病理所見・異常プリオン蛋白の証明は得られていないが,進行性認知症を示し,さらに脳波上の周期性同期性放電を認める。さらに,ミオクローヌス,錐体路または錐体外路徴候,小脳症状(ふらつき歩行を含む)または視覚異常,無動無言状態のうち2 項目以上を呈するもの。
3. 疑い例(possible):ほぼ確実例と同様の臨床症状を呈するが,脳波上の周期性同期性放電を認めないもの。

2.遺伝性プリオン病
概念
 表2 に示すように現在まで二十数種の遺伝子変異が遺伝性プリオン病の原因として報告されている。遺伝性プリオン病の代表的な病型に,プリオン蛋白遺伝子102 番の変異によるゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(Gerstmann-Straussler-Scheinker102:GSS102),家族性致死性不眠症(familial fatal insomnia:FFI)および家族性CJD がある。

(a) プリオン蛋白遺伝子変異Pro102Leu によるGSS(GSS102)
 1 概念・疫学
 プリオン蛋白遺伝子コドン102 のProline からLeucine への変異によるGSS(GSS102)は遺伝性プリオン病のうちで最も頻度の高いものであり,遺伝性プリオン病の90%を占める。
 2 臨床症状
 発症年齢は40-60 歳代で,平均約50 歳である。初発症状は歩行障害であり,その後に認知症を伴って両者が緩徐に進行する。神経学的には四肢の小脳失調,眼振,構音障害,下肢異常感覚,腱反射の低下,病的反射,認知症が認められる。ミオクローヌスの出現はまれである。全経過は約5-10 年である。末期には寝たきりから無動無言状態となり,感染症等で死亡する。ただし,上記のような典型例の他に認知症を初発症状とし,比較的急速に進行する亜型が存在する。
 3 検査所見
(1) 脳波
 @ PSD は約50%に認める。
(2) 脳脊髄液
 @ NSE や14-3-3 蛋白の上昇は普通認めない。
(3) 脳MRI
 @ 脳MRI の拡散強調画像またはFLAIR 画像にて大脳皮質と大脳基底核の高信号が認められることがある。
 A 初期には脳萎縮はないか,あっても軽度の大脳・小脳萎縮にとどまるが,病期の進行に伴い,脳萎縮も次第に明らかとなる。
 4 鑑別診断
 アルツハイマー病,脳血管障害,パーキンソン痴呆症候群,脊髄小脳変性症,認知症を伴う運動ニューロン疾患,脳炎,脳腫瘍,梅毒,代謝性脳症,家族性痙性対麻痺,等
 5 診断基準
 臨床症状からGSS を疑った場合の診断に最も重要なのはプリオン蛋白遺伝子の検索である。遺伝子変異が認められなければ,少なくとも遺伝性プリオン病は否定してよい。

GSS の診断基準
1. 確実例(definite):進行性認知症を呈し,さらに小脳症状か痙性対麻痺を伴う。プリオン蛋白遺伝子の変異が認められ,脳組織においてGSS に特徴的な病理所見を証明するか,またはウェスタンブロット法か免疫組織学的検査にて異常プリオン蛋白が検出されたもの。
2. ほぼ確実例(probable):臨床症状とプリオン蛋白遺伝子の変異は確実例と同じであるが,病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。 3. 疑い例(possible):家族歴があり,進行性認知症を呈し,小脳症状か痙性対麻痺を伴うが,プリオン蛋白遺伝子の変異や病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。

(b) 家族性致死性不眠症(FFI)
 1 概念・疫学
 Asp→Asn プリオン蛋白遺伝子コドン178 にAsp からAsn の変異を持ち,コドン129がMet/Met であった場合にFFI を生じる。コドン178 にAsp からAsn の変異を持っていてもその変異のある同一のアリルの129 番の多型がVal である場合は臨床症状はCJD となり,FFI とはならない。また,プリオン蛋白遺伝子200 番のGlu からLys の変異でFFI を生じることもある。男女差はない。日本では数家系が報告されているのみである。
 2 臨床症状
 発症年齢は平均50 歳である。病初期より進行性不眠,多汗症,体温調節障害,頻脈,血圧調節障害,排尿障害,不規則呼吸等の広汎かつ多彩な自律神経障害と,夜間興奮,幻覚等の精神運動興奮を呈する。病期が進行すると記憶障害,失見当識等の認知症やせん妄,構音障害,歩行障害を生じ,その他,ミオクローヌス,小脳失調,腱反射の亢進,病的反射が認められる。ただし,不眠を呈さない亜型が存在する。亜急性に進行し,約1 年で無動無言状態となり死亡する。
 3 検査所見
 (1) 脳波
  @ 睡眠脳波の消失
  A PSD は認められない。
 (2) 血液検査
  @ 血清カテコールアミンの上昇
 (3) 脳MRI で
  @ 視床内側に変性を示唆する所見が得られることがある。
 4 鑑別診断
 アルツハイマー病,脳血管障害,脳炎,脳腫瘍,梅毒,代謝性脳症,等
 5 診断基準
 臨床症状からFFI を疑った場合に診断に最も重要なのはプリオン蛋白遺伝子の検索である。孤発性致死性不眠症の鑑別が重要である。

FFI の診断基準
1. 確実例(definite):臨床的に進行性不眠,認知症,交感神経興奮状態,ミオクローヌス,小脳失調,錐体路徴候,無動無言状態などFFI として矛盾しない症状を呈し,プリオン蛋白遺伝子のコドン178 の変異を有しコドン129 がMet/Met である。さらに脳組織においてFFI に特徴的な病理所見を証明するか,またはウェスタンブロット法か免疫組織学的検査にて異常プリオン蛋白が検出されたもの。
2. ほぼ確実例(probable):臨床的にFFI として矛盾しない症状を呈し,プリオン蛋白遺伝子のコドン178 の変異を有しコドン129 がMet/Met であるが,病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。
3. 疑い例(possible):臨床的にFFI として矛盾しない症状を呈しているが,プリオン蛋白遺伝子変異や病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。

3.感染性プリオン病
概念
感染性プリオン病には,ヒト由来乾燥硬膜移植等を代表的な原因とする医原性クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD),牛海綿状脳症(bovinespongiform encephalopathy:BSE)罹患牛由来の食品を通じて人に感染した変異型CJD,等がある。

(a) ヒト由来乾燥硬膜移植によるCJD
 1 概念
 近年,脳外科手術時のヒト由来乾燥硬膜の移植によりCJD が感染したと考えられる患者が多発している。その多くがアルカリ処理をしていないドイツ製のヒト死体由来の乾燥硬膜(商品名 Lyodura)を使用していることが証明されており,医原性感染であることが確実視されている。
 2 臨床症状
 潜伏期は約1-2,3 年であり,発症年齢は50 歳代が多く,孤発性CJD と比べると若い。初発症状は小脳失調が多く,眼球運動障害,視覚異常の出現頻度が高い傾向がある。その他の臨床症状に非感染性CJD と違いはなく,PSD やミオクローヌスが出現する。罹病期間も1-2 年で非感染性CJD と差はない。ヒト由来乾燥硬膜移植によるCJDの約10%の患者は発症1 年後にも簡単な応答が可能であるような緩徐進行性の症状を呈する。この場合ミオクローヌスやPSD は見られないことが多い。
 3 診断基準
 医原性CJD の診断基準は孤発性CJD のものに準じる。

(b) 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)
1 概念・疫学
 vCJD はBSE 罹患牛由来の食品の経口摂取によって牛からヒトに伝播したと考えられている。1994 年よりイギリスを中心に発生しており,平成17 年5 月現在,累積患者数は170 名を越えている。イギリス以外では,フランス,アイルランド,イタリア,香港,アメリカ,カナダ、オランダ及び日本で報告がある。vCJD の全例でプリオン蛋白遺伝子コドン129 番はMet/Met 型である。
 なお、平成17 年2 月4 日に我が国において初めて確認されたvCJD 症例においては臨床経過中に実施された脳波検査及びMRI 検査において、世界保健機関が示しているvCJD の診断基準に合致しない所見が確認された(CJD サーベイランス実施時は孤発型CJD の所見を示した。)ことを踏まえ、今後、プリオン病を疑わせる症状を有する患者の診断(特に、分類の診断、除外の診断)等の際には、この点に特に留意が必要である。
2 臨床症状
 発症年齢は12-74 歳であるが,平均29 歳と若年であることが特徴である。初期には抑鬱,焦燥,不安,自閉,無関心,不眠,強迫観念,錯乱,興奮,異常な情動,性格変化,異常行動,記憶障害等の精神症状が中心である。進行すると認知症が徐々に顕著となり,また全例に失調症状を認めるようになる。顔・四肢の痛み,異常感覚,感覚障害も高頻度に認められる。ミオクローヌスは認められるが,CJD に見られる程はっきりとしておらず出現期間,頻度ともに少ない。経過は緩徐進行性で罹病期間は平均18 か月である。末期には約半数が無動無言状態となる。
3 検査所見
(1) 脳波
 @ PSD は認められない。
(2) 脳脊髄液
 @ 14-3-3 蛋白は約半数で陽性
(3) 脳MRI
@ 大脳萎縮は通常認められない
A 視床枕に拡散強調画像やFLAIR 画像で高信号領域が認められる(視床枕徴候:pulvinar sign)。同時に視床内側も同時に高信号領域を呈することがある(ホッケー杖徴候:hockystick sign)。
B 大脳基底核も高信号領域を呈することがあるが,vCJD では視床の病変の方が大脳基底核よりも明瞭である
C 大脳皮質のリボン状の高信号領域は認められない。
4 鑑別診断
 他のプリオン病,視床変性症,アルツハイマー病,脳血管障害,脳炎,脳腫瘍,梅毒,代謝性脳症,等
5 診断基準
 WHO による2001 年度版の診断基準を示した。

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の診断基準
T
A. 進行性精神・神経障害
B. 経過が6 か月以上
C. 一般検査上,他の疾患が除外できる。
D. 医原性の可能性がない。
E. 家族性プリオン病を否定できる。
U
A. 発症初期の精神症状a
B. 遷延性の痛みを伴う感覚障害b
C. 失調
D. ミオクローヌスか,舞踏運動か,ジストニア
E. 認知症
V
A. 脳波でPSD 陰性c(または脳波が未施行)
B. MRI で両側対称性の視床枕の高信号d
W
A. 口蓋扁桃生検で異常プリオン陽性e

確 実 例:TA と神経病理で確認したものf
ほぼ確実例:T+Uの4/5 項目+VA+VB
またはT+WA
疑 い 例:T+Uの4/5 項目+VA
a:抑鬱,不安,無関心,自閉,錯乱
b:はっきりとした痛みや異常感覚
c:約半数で全般性三相性周期性複合波
d:大脳灰白質や深部灰白質と比較した場合
e:口蓋扁桃生検をルーチンに施行したり,孤発性CJD に典型的な脳波所見を認める例に施行することは推奨されないが,臨床症状は矛盾しないが視床枕に高信号を認めないvCJD 疑い例には有用である。
f:大脳と小脳の全体にわたって海綿状変化と広範なプリオン蛋白陽性の花弁状クールー斑

4 参考事項
 プリオン蛋白遺伝子,14-3-3 蛋白,脳病理・免疫組織化学,ウェスタンブロットの検査依頼先は以下の通りである。

(1) プリオン蛋白遺伝子,脳病理・免疫組織化学,ウェスタンブロット
北本 哲之
東北大学大学院病態神経学
〒980-8575 仙台市青葉台星陵町2-1
tel:022-717-8147
fax:022-717-8148
e-mail:kitamoto@mail.tains.tohoku.ac.jp

(2) プリオン蛋白遺伝子,14-3-3 蛋白 堂浦 克美
東北大学大学院医学系研究科附属応用創生応用医学センター
プリオン蛋白研究部門プリオン蛋白分子解析分野
〒980-8575 仙台市青葉台星陵町2-1
tel:022-717-8147
fax:022-717-8148

表1:プリオン蛋白遺伝子コドン129 番の多型と異常プリオン蛋白タイプによる臨床分類
遺伝子型:蛋白型 MM・1 MM・2 MV・1 MV・2 VV・1 VV・2
病型 典型的CJD 皮質型/視床型 典型的CJD 失調・痴呆型 痴呆型 失調・痴呆型
プリオン蛋白の沈着パターン シナプス型 シナプス型 シナプス型 シナプス型
プラーク型
シナプス型 シナプス型
プラーク型
ミオクローヌス
周期性同期性放電まれまれ
14-3-3 蛋白まれ
進行速度亜急性緩徐亜急性緩徐緩徐亜急性

表2:プリオン蛋白遺伝子変異と臨床的特徴
プリオン蛋白遺伝子変異臨床的特徴
コドン59-91 へのアミノ酸挿入非典型的CJD やGSS 様等
コドン102 Pro→Leu
同一アリルの129Val
GSS
コドン105 Pro→Leu
同一アリルの129Val
痙性四肢麻痺を伴うGSS
コドン117 Ala→Val
同一アリルの129Val
非典型的GSS 等
コドン131 Gly→AalGSS 様
コドン145 Try→stop緩徐進行性認知症
コドン178 Asp→Asn
同一アリルの129Val
CJD
コドン178 Asp→Asn
129 がMet/Met
FFI
コドン180 Val→Ile緩徐進行性CJD 等
コドン183 Thr→AlaFTD 様
コドン187 His→ArgGSS 様
コドン188 Thr→AlaCJD
コドン196 Glu→LysCJD 様
コドン198 Phe→SerNFT を伴うGSS
コドン200 Glu→LysCJD かFFI
コドン203 Val→IleCJD
コドン208 His→ArgCJD
コドン210 Val→IleCJD
コドン211 Glu→GlnCJD
コドン217 Gln→ArgNFT を伴うGSS
コドン232 Met→ArgCJD
FTD:frontotemporal lobe dementia;NFT:neurofibrillary tangle

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