難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

シェーグレン症候群/特定疾患情報

診断・治療指針

1. シェーグレン症候群とは
 シェーグレン症候群は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンの発表した論文にちなんでその名前がつけられた疾患です。日本では1977年の厚生省研究班の研究によって医師の間に広く認識されるようになりました。

 本疾患は主として中年女性に好発する涙腺と唾液腺を標的とする臓器特異的自己免疫疾患ですが、全身性の臓器病変を伴う全身性の自己免疫疾患でもあります。シェーグレン症候群は膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス強皮症皮膚筋炎混合性結合組織病)に合併する二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない原発性シェーグレン症候群に分類されます。原発性シェーグレン症候群の病変は3つに分けることができます。1つ目は目の乾燥(ドライアイ)、口腔乾燥の症状のみがある患者さんで、ほとんど゛健康に″に暮らしている患者さんもありますが、ひどい乾燥症状に悩まされている人もあります(約45%)。2つ目は全身性の何らかの臓器病変を伴うグループで、諸臓器へのリンパ球浸潤、増殖による病変や自己抗体、高γグロブリン血症などによる病変を伴う患者さんです(約50%)。3つ目は悪性リンパ腫や原発性マクログロブリン血症を発症した状態です(約5%)。経過を見ますと、約半数の患者さんは10年以上経っても何の変化もありませんが、半数の患者さんは10年以上経つと何らかの検査値異常や新しい病変がみられます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 厚生省研究班のデータでは、1年間に病院などを受療した患者さんは15,000〜20,000人とされました。しかし、潜在的な患者さんを含めると、この数よりも多いことが推測され、アメリカのデータを当てはめると10〜30万人と推定されることもあります。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 この疾患の年齢層は50才代にピークがあります。少数ですが、子供から80才の老人まで発症することもあります。男女比は男1人:女14人で、女性に多く発症します。関節リウマチの患者さんの約20%にシェーグレン症候群が発症します。その他の膠原病の患者さんにも発症することがあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 自己免疫による疾患で、自分の身体の成分に対して免疫反応を起こすことによる疾患です。遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、免疫異常、更に女性ホルモンの要因が考えられています。これらの4つの要因が複雑に関連し合って発症するものと考えられ、どれか一つの原因で発病するわけではありません。

5. この病気は遺伝するのですか
 同一家族内に膠原病が発症する率は約8%で、シェーグレン症候群が発症する率は約2%位とされています。これはそうでない人と比べ少し多いですが、疾患が遺伝すると考えるのは間違いです。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
以下のようなものがあります。

1. 目の乾燥(ドライアイ)
・ 涙が出ない ・ 目がころころする ・ 目がかゆい ・ 目が痛い ・ 目が疲れる ・ 物がよくみえない ・ まぶしい ・ 目やにがたまる ・ 悲しい時でも涙が出ないなど。

2. 口の乾燥
・ 口が渇く ・ 唾液が出ない ・ 摂食時によく水を飲む ・ 口が渇いて日常会話が続けられない ・ 味がよくわからない ・ 口内が痛む ・ 外出時水筒を持ち歩く・夜間に飲水のために起きる・虫歯が多くなったなど。

3.鼻腔の乾燥
・ 鼻が渇く ・ 鼻の中にかさぶたが出来る ・ 鼻出血があるなど。

4. その他
・ 唾液腺の腫れと痛み ・ 息切れ ・ 熱が出る ・ 関節痛 ・ 毛が抜ける ・ 肌荒れ ・ 夜間の頻尿 ・ 紫斑 ・ 皮疹 ・ レイノー現象 ・ アレルギー ・ 日光過敏 ・ 膣乾燥(性交不快感)など。

・ 全身症状として  疲労感 ・ 記憶力低下 ・ 頭痛は特に多い症状で、 めまい ・ 集中力の低下 ・ 気分が移りやすい ・ うつ傾向などもよくあります。

7. この病気はどのようにして診断されるのですか
 1999年に厚生省の診断基準が改定され、

(1)口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある (2)唾液分泌量の低下がガムテスト、サクソンテスト、唾液腺造影、シンチグラフィーなどで証明される (3)涙の分泌低下がシャーマーテスト、ローズベンガル試験、蛍光色素試験などで証明される (4)抗SS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である

 この4項目の中で2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。

8. この病気ではどのような治療があるのですか
 現状では根本的にシェーグレン症候群を治癒させることは出来ません。したがって治療は乾燥症状を軽快させることと疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことにあります。目の乾燥、口の乾燥はひどくなると著しく生活の質(QOL)を障害しますので、毎日の点眼、口腔清潔を心がける必要があります。エアコン、飛行機の中、風の強い所、タバコの煙などに注意が要ります。皮膚に対して、石鹸の使用、頻繁に風呂に入ること、特に熱い湯は良くありません。膣の乾燥の原因については、アンケートでは20%の患者さんに性交不快感があり、エストロジェンの内服やエストロジェン入りのクリームなどを使用することが必要となりますので、婦人科を受診するのが良いでしょう。規則正しい生活、休養、バランスのとれた食事、適度の運動、ストレスを取り除く等の注意が必要です。
  「未来技術の実現予測」(文部科学省科学技術政策研究所、2001年)では、「2021年に自己免疫疾患が完治可能になる」としていますので、この頃には「シェ−グレン症候群の治癒」が期待されます。これは日本の専門家たちの予測で、このような予測を頭に入れて患者さんと医師が協力し合って忍耐強く病気に対応することが重要でしょう。

1.眼乾燥(ドライアイ)に対する治療
 治療法は(1)涙の分泌を促進する、(2)涙の補充、(3)涙の蒸発を防ぐ、(4)涙の排出を低下させる方法がとられます。

(1)涙の分泌を促進する方法として、ステロイド薬による抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制による効果が一部で期待されます。塩酸セビメリンがヨーロッパでは涙の分泌にも効能が認められていますが、日本では適応が取れていません。一部の患者さんには効果があります。

(2)涙の補充には人工涙液や種々の点眼薬があります。これらを1日3回以上使用します。点眼薬には防腐剤が入っていますので、何回も点眼するときは防腐剤による角膜障害が問題になります。この場合は普通の点眼の後に防腐剤の入らない点眼薬(生理的塩水、ソフトサンティア)で洗い流すか、防腐剤のはいらない使い捨ての点眼薬(ヒアレイン・ミニ)を使う方が良いでしょう。傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的で、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬が使用されます。別の治療として、自己血清を採取してこれを薄めて使用する方法が推奨されています。血清の中には上皮成長因子、ビタミンなどの様々な物質が入っているからです。

(3)涙の蒸発を防ぐために、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。

(4)涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。それには涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法があります。これらはいずれも患者さんに大変評判のよいものです。眼科医に相談して下さい。

2.口腔乾燥に対する治療
 シェーグレン症候群の患者さんは虫歯になりやすいので、口内を清潔に保つことが非常に大切です。

 まず、口腔乾燥作用を持つ薬剤を服用しているときはこれを中止することです。その他(1)唾液の分泌促進、(2)唾液の補充、(3)虫歯の予防や口内の真菌感染予防、(4)口腔内環境を改善することなどです。

(1)唾液分泌の刺戟、促進
・唾液分泌を刺激するものとして:シュガーレスガム、レモン、梅干などがあります。
・唾液分泌を促進するものとして:アネトールトリチオン(フェルビテン)がありますが、尿の着色、腹鳴などの副作用が出現することがあります。他にブロムヘキシン(ビソルボン)、漢方薬(人参養栄湯、麦門冬湯)なども用いられますが、これらの薬剤は、患者さんによっては有効です。副腎ステロイド剤も有効であり、症状に合わせて使用されます。特に、唾液腺腫脹をくり返す時には有効です。塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)は今までの薬剤に比べて有用性が高く、約60%の患者さんに有効で患者さんの評価もかなり良いものです。副作用として消化器症状や発汗などが約30%の患者さんにあります。本剤は人により作用、副作用に大きな違いが見られますので、1日1錠から始め、副作用を見ながら1錠ずつ増量するなどの慎重な服用が望まれます。また、マレイン酸トリメブチン(セレキノン)の併用は、吐き気などの副作用を予防することが報告されています。さらに、水に溶かしてうがい薬として使う方法も検討されています。2007年日本において塩酸ピロカルピン(サラジェン)が保険適用となりました。汗をかきやすいという副作用がありますが、塩酸セビメリンと同様に唾液分泌に有効な薬剤です。頭頚部の放射線治療に伴う口腔乾燥症状の改善に対しては、平成17年9月より保険が適用されています。

(2)唾液の補充はサリベートや2%メチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬粘膜に噴霧した方が口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。

(3)虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとして、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられます。歯の管理と治療としてブラッシング、歯垢の除去と管理、虫歯、歯周病対策などがあります。オーラルバランスという口腔保湿剤もあります。

(4)口腔内環境を改善させるために、食事の改善として乾燥食品、香辛料、アルコール飲料を避けること、禁煙が必要です。口内の痛み、乾燥による咀しゃくと嚥下困難に対しては食物をやわらかくする、刺激のあるものを避ける、乾燥したものは液体に浸して食べる、温度を食べやすい温度にする、などがあります。歯の健康に対してはバラエティーに富んだ食物群をとる、糖分を避ける、甘い間食をとらない(ガムはキシリトールガムにする)などの注意が要ります。味覚の変化に対しては食物の水分、温度、食物の組み合わせを工夫するなどを考えてください。全身性の臓器病変のある人は内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などを含めて適した治療を受けるべきです。経過については、10〜20年経ても症状に変化のない患者さんが約半数です。残りの約半数の患者さんには何らかの検査値の異常や全身性の病変が発症する可能性があります。その中には白血球減少、高γグロブリン血症や皮膚の発疹、間質性肺炎、末梢神経症、肝病変、腎病変などがあります。まれにリンパ腫を発症する患者さんもいます。

 シェーグレン症候群は長期間にわたる慢性疾患です。以下のことが大切だと思います。
 病気の正しい理解と心構え

1. 病気の理解(医師、本、患者会で学ぶ)
(1)自己免疫疾患である
(2)慢性に経過する炎症性疾患である
(3)病気の勢いに波がある
(4)医学の進歩は日進月歩で、新しい治療が開発されている

2. 心構え (1)病気と共存する
(2)生活を積極的にエンジョイする工夫をする
  出来ることは何でもやってみる
  人と同じことが出来なくても、他の方法で楽しむ工夫をする
(3)同じ病気にかかっているのは自分ひとりではない
(4)わるい方へばかり考えない

3. 日常生活で気をつけること
 1. 規則正しい生活
 2. 安静と十分な睡眠:過労をさける、昼寝をする
 3. 好き嫌いせずにバランスの取れた食事:栄養素、カルシウム(食後の歯の手入れ)
 4. 寒冷をさける:ウイルス感染に注意
 5. 外傷、手術などの肉体的ストレスをさける
 6. 精神的ストレスをさける
 7. 適正体重の維持
 8. 適度の運動:入浴、散歩、庭いじり、畑仕事、サイクリングなど
 9. 強い日光をさける(日中、山、海、スキー):帽子、長袖シャツ、日焼け止めクリーム
 10.長期の予後に関係する疾患を予防する:骨粗しょう症、動脈硬化、高血圧、糖尿病、白内障、結核など
 11.薬をキチンと服用する
 12.定期的な診察・検査を受ける
 13.インチキ療法に注意:高価なもの、極端な精神療法は疑う、主治医に相談

 詳しくは、後に示すような患者さんのために書かれた本を参考にしてください。この病気を正しく理解し、病気に打ちひしがれることなく強く生きて欲しいと願っています。

9.この病気ではどのような取り組みがあるのですか
 患者会として「シェーグレンの会」(事務局:金沢医科大学血液免疫内科)があり、毎年1回開かれています。近年は一泊泊まりでゆっくりと開かれます。2002年には5月に「国際シェーグレン症候群シンポジウム」が金沢で開かれ、そのときに第15回患者会が国際シンポジウムと合同で「国際患者会」として開かれました。詳しくは会報(第11号)に載っています。
 日本には「日本シェーグレン症候群研究会」(事務局:2006年より筑波大学膠原病リウマチアレルギー内科)があり、15年以上の歴史を持ち、活発に研究活動を行っています。本年(2008年)には、第17回日本シェーグレン症候群研究会が開催されます(会長:藤田保健衛生大学 吉田俊治教授)。研究会のホームページは<http://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical-med/sjogren/>ですので見て下さい。また、「ドライアイ研究会」「ドライマウス研究会」なども活躍しています。

 国際的な研究会は「国際シェーグレン症候群シンポジウム」が2〜3年に1回開かれ、多くの医師がこの疾患にとり組んでいます。2002年には金沢で「第8回国際シンポシウム」(会長:金沢大学、菅井 進教授)が、「第11回日本シェーグレン症候群研究会(会長:筑波大学、住田孝之教授)」と「第21回ドライアイ研究会(会長:慶応大学、坪田一男教授)」との合同で開かれました。2009年には、フランスのブレストにおいて、第10回国際SSシンポジウムが開催される予定です。

 その他に、厚生労働省の「自己免疫疾患に関する調査研究班」(班長:東京大学、山本一彦教授)の中でも熱心な研究が行われています。


情報提供者
研究班名 免疫疾患調査研究班(自己免疫疾患)
情報更新日 平成20年5月7日

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