特務捜査官レディー・特別編 (響子そして/サイドストーリー)
(三)ニューヨーク散策  それから数時間後、署内の挨拶まわりを済ませて外へ出てくる二人。 「さて、日も高いし、ニューヨーク観光といきましょうか」 「俺は宿舎で眠りたいね」 「何よお、新妻を放っておくつもりなの?」 「おいおい。新婚旅行に来たんじゃないんだぞ」 「いいじゃない。二人きりの時くらい、新婚気分でいたって。警察官舎だって夫婦の 部屋だって言ってたじゃない」  といいつつ敬に擦り寄ってくる薫。 「ちぇっ。好きに考えてろ」 「うん。好きに考える」  というわけで、仲良く腕を組んで新婚気分でニューヨーク観光に出歩く二人だった。  意外にもニューヨーク市警のミニパトは、一人乗りがやっとの小型のオート三輪車 だった。NYPD POLICEの文字と市警マークとがブルーカラーの車体にペイ ントされている。 「あ! 信号無視したわ」 「おいおい。嘘だろ」  何と警察官の乗るミニパトが、目の前で信号無視して走り去ってしまったのである。 通行人もそれが日常茶飯事な行為みたいに平然としている。  ニューヨークのトイレ事情も最悪である。どの観光ガイドにも書いてあるが、探し て見つかるものでないことが、現地に行った人の異口同音である。  また公衆トイレは安全対策上使わない方が無難だ。悪餓鬼に入り口を塞がれて他の 人間が入れないようにして、中で何があっても助けにきてくれない状態となる。金を 奪われるくらいならまだいいが、女性だったらやりたい方だい輪姦されてしまう。白 昼堂々とそれが行われる。だからガードマン付きのトイレがあったりして、申し出れ ば鍵を開けてくれるところもある。だがそのガードマンが襲ってきたらどうしようも ない。鍵はガードマンが持っているから完全な密室状態となる。  地下鉄は、どこまで乗っても1.5$だ。日本のように区間運賃というものがない。 以前は恐い汚いというイメージがつきまとっていたが、最近は治安改善の努力がなさ れてかなり健全になってきている。たまに空き缶を振って「Give me help」とか言っ て寄ってくる奴もいるが無視するに越した事はない。  バスも1.5$でどこまでも行ける。ただしマンハッタンは一方通行が多いので、 行きと帰りではバスストップの場所が違うので要注意。  タクシーに乗るなら、ニューヨーク市公認の車体を黄色に塗ったイエロー・キャブ に乗る事。チップは料金の10から15%、これが1$に満たない時は1$支払う。 ただし、出稼ぎの運転手も多く、ホテルなどの名前だけでは通じない事も多いから住 所は把握しておくことが肝心だ。  日が暮れはじめた。 「そろそろ宿舎に戻るとするか」 「そうね。本当はマンハッタンの夜景も見たい気もするけど……」 「んなもん。いつだって見られるだろう。俺はもう眠たいの! どうしても見たいと いうのなら一人で見るんだな」 「あのね、ニューヨークの夜の一人歩きがどれだけ危険か知ってるくせに……。判っ たわよ。戻るわよ。一人で見たってちっとも面白くないだろうし」 「どうせマンハッタンの夜景見るなら、どこかホテルの展望レストランかなんかで、 ドレスアップしてディナーしながら優雅に眺めたいよ」 「あ! それいい。いつにする?」 「こっちでの最初の給料が出たら」 「判った。約束だよ。ホテルでディナー」
     
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