特務捜査官レディー・特別編 (響子そして/サイドストーリー)
(二)ニューヨーク市警  そして旅立ちの日。  薫の母が空港ロビーまで見送りに来ていた。 「そうやって二人で一緒にいるところを見ると、まるで新婚旅行に出かけるカップル みたいね」 「あはは、やっぱりそう見えます? 実は俺もそう思ってたんですよ」 「何言ってんのよ。もう……」  思わず赤くなる薫だった。 「おまえが本当の女の子だったら、敬くんとそういうことになっていたと思ってるん だけどね」 「お母さん。それは言わない約束でしょ」 「研修で行くのが目的じゃなくて、本当は性転換手術目的だったりしてね」 「え? 薫、そうなのか? 日本じゃほとんど絶望的だから」 「そんなはずないじゃないの。馬鹿」 「でも一応言っておくわ。わたしは、性転換することには反対しないから、もしその 気になったら遠慮しないでね」 「うん。わかった……」  やがて搭乗手続き開始のアナウンスが聞こえた。 「じゃあ、敬くん。薫をお願いね。あなただけが頼りなんだから」 「まかしておいてください」  薫の母に見送られながら搭乗ゲートを向かう二人だった。  およそ九時間の長丁場の末に、ニューヨークのケネディー空港に到着。  こちらのことは、すべてニューヨーク市警が手筈を整えているはずである。  とにかく市警本部へと向かうことにする。  ニューヨーク市警本部。  本部長オフィスに、研修の挨拶をする二人。  恰幅の良い中年の本部長と面会する。 『よく来てくれたね。長旅で疲れただろうし時差もある。今日明日はゆっくり休んで、 時差を克服し体調を整えてくれたまえ』  満面の笑顔だった。 『ありがとうございます』 『捜査にはかなりの腕前と聞いているよ。その手腕を発揮してニューヨーク市警にお いても、犯罪撲滅に協力してくれたまえ』 『恐れ入ります』 『それじゃあ、勤務は明後日ということで頼むよ』 『はい、判りました』 『君達の生活の場となる宿は、警察官舎の夫婦寮を宛がっておいた』 『夫婦寮ですか?』  思わず見合わせる二人。 『君達は恋仲と言うじゃないか、別に不都合はないだろう。独身寮の空きが少なくて ね、丁度夫婦寮が開いていたので、そうさせてもらったよ』 『ですが、私たちは……』 『いや、皆まで言わなくても判っている。佐伯君は男性だけど、性同一性障害者なん だってね。それで女性の姿でいると……。あ、いや。恐縮しなくてもいいよ。日本じ ゃどうだか知らないが、アメリカではそういった人々に対する理解度は高いからね。 ある州では同性でも結婚を認めているくらいだから。当警察署では君を女性として扱 うことにしているから』 『本当ですか?ありがとうございます。感謝します』  薫が目を爛々として輝かせている。  日本では、性同一性障害ということはある程度認められつつあるが、実際にはまだ はじまったばかりというところだ。
     
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