女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-3  麻酔から覚めました。  ベットの上に横たわり、しばらくは意識朦朧状態で、天井を何気なく見つめていた ようです。  次第に意識が回復していきます。 「そ、そうだ! 身体はどうなって……」  掛け布団を跳ね上げて、わたしは絶句してしまいました。  可愛らしい女物のネグリジェを着せられており、以前のままの豊かな胸がネグリジ ェの上からもはっきりと確認できたからでした。  そこへ丁度医師が入室してきました。 「気分はどうですか?」  ほとんど事務的な回診の口調でした。 「どうして……元の身体に戻してくれると言ったじゃないですか」 「いやあ。完璧に手術は成功したよ。後は回復を待つだけだ」 「胸はあるじゃないですか、一体どんな手術をしたのですか」 「SRS。性別再判定手術というものだよ」 「SRS……。何ですかそれは」 「股間を触ってみればわかる」  医師に言われた通りに、股間に手を当て、覆われたガーゼの中に指を差し込んでみ ると、 「な、ない!」  その場所にぶら下がっているはずのモノが見当たりませんでした。  しかも異様な感触もあったのです。溝らしきものがあって、まさぐっていた指があ る部分で、すっと少し中へ入っていく感触。 「ま、まさか!」  わたしは、医師や看護婦がいるのにも気がつかない状態で、ベッドを起き上がりネ グリジェを脱いで、大きなガーゼを取り除いて、その股間を明るい光の中で確認した のでした。  手術の為にきれいに剃りあげられたその部分には、ほのかなピンク色をした女性の 外陰部があったのです。 「こ、これは……」  あまりのショックに、その後の声が出せませんでした。 「心配するな。私は中途半端は嫌いだ。脳死した女性の内性器と、外陰部から恥毛を 含めた鼠径部ごとそっくり移植したんだ、どこから見ても完全な女性にしか見えない ぞ。膣や子宮、そして卵巣もあるから、性行為はちゃんとできるし、妊娠も可能だぞ。 せっかく大きくて豊かな胸になったんだ、どうせなら身体全体も完全な女性になりた いだろうと思ってね」 「そんなこと、聞いていません」 「ああ、大丈夫。拒絶反応は起きないよ。血液を採取しただろ、あれで血液型や免疫 抗体などの検査をしている。うまい具合に血液型の一致した脳死者の女性が見つかっ た」 「そうじゃなくて……」 「以前の状態のままなら、豊かな胸を維持するために毎週注射を打たなければならな かったし、あれだけ強力な薬だから、女性ホルモンの禁断症状は麻薬のそれとは比べ ものにならないほどの苦痛が、再び薬を打つまで続いていたはずだ。しかし卵巣を移 植したからもうその心配はないよ。血液中に女性ホルモンがある限り、禁断症状は起 きない。いずれ薬の効果も消えるから禁断症状も消失する」
     
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