最終章・和解の地にて
Ⅲ 「これを見て頂けますか」  トゥイストーは、くるりと背を向けて計器を操作しはじめた。 「機器が動くのですか?」 「はい。いわゆる状態保存というやつでね、こんなこともあろうかと、整備をし ていたのですよ」  静かな船内に、機器を操作する音が響く。  薄暗い中、モニターが明るく輝いて、映し出された人物があった。  その人物を見て驚くトゥイガー達イオリスの四人。 「ランドール提督!」  天の川銀河において、トリスタニア共和国同盟最高司令官であり、銀河帝国皇 太子にして宇宙艦隊司令長官。  三百年以上続いたバーナード星系連邦との戦争を終了させ、銀河の統一に導い た英雄である。  モニターを一旦止めてから、トゥイストーは語る。 「この移民船をこのまま朽ちさせるのはもったいない。コンピューターは子孫の 教育などに役立つし、いつかまた飛び立つかも知れないということで、常時修理 整備して動態保存していたのです。そんなある日、コンピューターが自動起動し て、このモニターが映し出されたのです。どうやら映像の主は、一万年経過後に 自動起動するようにシステムを組んでいたようです」 「なるほど、先読みの鋭いランドール提督らしいですね」  モニターの英雄が語り掛ける。 『私は、アレックス・ランドールである。私はすでにこの世にはいない。おそら く一万年後の世界で、どのようなことが起こっているかは知るすべもない』  ランドール提督の素顔は、トゥイガー達は見知っているが、他の三民族は初見 である。歴史上の人物で、アルデノン共和国を建国した人物であることしか知ら ない。 「あらためて確認しましょう。この方は、我々をこの銀河に誘(いざな)ったア レックス・ランドール提督です。そしてそれは、あなた方の指導者でもあったよ うです」  言語学者のクリスティン・ラザフォードが確認する。 「この方が、英雄ランドールですか……」  ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐が呟くように言った。自国の英雄と して文書記録には残っている人物であるのだが、一万年前のこととて写真データ などは風化消滅していた。  系統的に繋がるミュータント族も植人種も同様の思いであったろう。  話は続いている。 『一万年後の世界が、平和なのか戦乱に荒れ狂っているのか想像だにできない。 最悪人類は滅んでいるのかも知れない。願わくばすべての民族が共存共栄してい ることを望む……』  映像が終わった。  三つに分裂して長年戦いあった国家間を一つにまとめあげた英雄だけが醸し出 す雰囲気が漂っていた。  映像ながらもこの場にいる人々に連なる英雄の登場で、連帯感のような感情が 沸き上がるのを感じているようだった。  しばらく無言のまま見つめっていた。  突然、トゥイガーの携帯無線が鳴った。  サラマンダーからの緊急連絡のようだった。 「ちょっと失礼します」  と言って、携帯を取った。 「どうした?」 『未確認の艦隊が接近しています』  その声に、ケルヒェンシュタイナーが応えた。 「私の味方艦隊のようです。救援に来てくれたようです」 「そのようですね」 「一旦艦に戻って、艦隊と連絡を取りましょう。戦いは避けたいですからね」  一旦解散して、それぞれの艦に戻る一行。  ケルヒェンシュタイナーは、旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグに戻り、壊 れていない無線で救援部隊に連絡を入れて、停戦指示を出した。  ドミトリー・シェコチヒンも、軽巡洋艦スヴェトラーナから衛星軌道を周回し ている艦隊に待機命令を。  そして、トゥイガーはサラマンダーから、万が一の場合に備えることにした。 「アルビオン艦隊より入電しました」  通信士のフローラ・ジャコメッリ少尉が伝える。 「繋いでくれ」 「繋ぎます」  通信用モニターに、ケルヒェンシュタイナーが映る。 『今、救援艦にいる。事情はすべて了解してもらった。安心してくれ、戦いはない』 「それは結構ですね」 『我々は、一旦本国に戻って和平交渉を上層部に進言することにするよ』 「よろしくお願いいたします」  続いてドミトリー・シェコチヒンから連絡が入る。 『我々も救援艦を要請した。到着を待つことにする』 「分かった」  こうして、それぞれの本国に戻った彼らの精進努力によって、数年後に和平交渉が始まった。  いずれマゼラン銀河にも平和が訪れるだろう。  完
   
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