最終章・和解の地にて
Ⅱ  開拓移民船。  それは、ここに集ったすべての人々の寄る辺となっていた船。 「遥か一万年前に、天の川銀河からこの地へと渡ってきた船です」  族長トゥイストーが、横たわる船を指さしながら皆に伝えた。 「それは真か?」  ドミトリーが驚きの声を上げた。  一万年前のある日、かつてのミュータント族が、アルデノン共和国にただ一隻 あった開拓移民船を略奪して、宇宙へと飛び出した船でもあるからである。 「調べてみます」  技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が、船に駆け寄って船体を調べ始めた。  こびり付いている植物の蔦を掻いて地肌を露出させて、船体に刻まれているは ずの機体番号を読み取ろうとしていた。  それは多少擦れてはいたが、何とか読み取れたようだ。 「この開拓移民船は、ランドール提督が乗船していた船に間違いありません」  その声は、感動に震えていた。 「そうか……」  トゥイガー、ケルヒェンシュタイナー、ドミトリー、それぞれ何か言いたげだ が言葉が出ないという表情をしている。 「中へ案内しましょう」  トゥイストーが搭乗口を開けて、船内へと導いた。  移民船の中には、一行にとって馴染みのある見慣れた機器が並んでいる。  たどり着いた場所は、船を操作する制御盤の並んだ船橋であった。 「まあ、適当な椅子に座ってくだされ」  言われたとおりに、それぞれ着席する。 「まずは、私どもについて話しましょうか。植人種となったいきさつをね」  そう言うと、訥々(とつとつ)と話し始めた。  かつて、アルデノン共和国の移民船を分捕り、宇宙へと脱出したミュータント 族がたどり着いたのが、生存に可能な水と空気のある環境を備えた居住惑星、後 にサンクト・ピーテルブールフと命名されることとなる惑星でした。  首領ドミトリー・シェコチヒンの指導のもと、開発と人口殖産が進められ、や がて再び宇宙へと進出することが可能となりました。  新造の移民船が多方面の宇宙へと進出してゆき、記念となるべきこの移民船も 駆り出されることとなったのです。  そして、この地を訪れることとなったのですが……。 「冬虫夏草の巣窟だったということですね?」  生物学者のコレット・ゴベールが口を挟んだ。 「その通り」 「ちょっと質問よろしいですか?」  今度は言語学者のクリスティン・ラザフォードが質問する。 「何かね?」 「その冬虫夏草にしろ海の魚にしろ、生命の誕生には神がかりな確率だと思うの ですが」 「移民船は、航行中に定期的にゴミを排出するからね。一万年前に、惑星アルビ オンにたどり着く途中で排出したゴミがこの惑星に落下して、そこに付着してい た生物から新たな生命が発生したと考えられる」 「それは十分考えられますね」  コレットが頷く。  何もしらない人々は、開拓精神に燃えながら植林や耕作を始めたのだが、一人 また一人と病に臥していきました。  冬虫夏草に体内を寄生されてしまったのです。 「宇宙に脱出することはできなかったのですか?」 「最初は風邪のような病気だと軽く考えていましたからね。気が付いた時には、 誰も動けなくなっていました。船を動かせる者が全員倒れてしまったのです」 「それでは仕方がありませんね」  話は続く。  最後に一人だけ生き残ったのは生物学者でしたが、甲斐もなく発症の前兆を見 せていました。  絶望した彼は、自殺装置を作って実行したものの、シダ植物は必至の抵抗を見 せて遺伝子の一部を預けて同体化してしまったのです。  目を覚ました彼は、動物体と植物体が共生する植人種となったことに気が付き ました。 「なるほど、元々は我々と同族だったというわけか……。実に興味津々な出来事 だったのだな」  ドミトリーが納得したように感心している。  ミュータント族と植人種の関係が明らかにされたが、他の人々もそれぞれ繋が りがあることも明らかにされた。  ランドール提督の乗っていた開拓移民船がすべての民族を繋いでいた。
     
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