第十二章・追撃戦
Ⅱ  戦闘宙域から後方に下がった空間に特務哨戒艇P300VXが浮かんでいる。 「データは取れたか?」  艇長が確認すると、機器を操作していたオペレーターが答える。 「ばっちりですよ」  右手に親指を立てるようにして掲げる。 「帰還命令が出ています」  と、通信士のモニカ・ルディーン少尉。 「分かった。サラマンダーに戻るぞ」  サラマンダー艦橋。 「哨戒艇、帰還しました」  と、副長のジェレミー・ジョンソン准尉。 「よし。スヴェトラーナのワープ先は計算できたか?」 「はい。大丈夫です」  技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が答える。 「ワープ準備しろ! スヴェトラーナを追うぞ!」 「了解しました」  艦隊をクラスノダールに残したまま、サラマンダーの追跡行が続く。  データ解析室。  スヴェトラーナが、W.V.ハンブルグに対して行った戦闘記録を解析している 技術者。  その傍らでは、トゥイガー少佐が眺めている。 「どうだ?」 「はい。最初に出くわした時の戦闘記録と、今回のP300VSが記録した分と合 わせて解析していますが、今少しデータが足りないようです」  申し訳なさそうに答える技術主任だった。 「もう一回やり合えば、データが揃うか?」 「ええ、まあ……たぶんですが」 「そうか、分かった。ともかく戦術コンピューターに入力しておいてくれ」 「かしこまりました」  艦橋に戻ったトゥイガー少佐。 「まもなくワープアウトします」  航海長のラインホルト・シュレッター中尉が伝えた。 「総員警戒しろ! ワープアウトで何が起きるか分からんからな」  念のために警戒態勢を指示するトゥイガー少佐。 「了解。総員警戒態勢!」 「ワープアウトします」  艦橋内に緊張が走る中、サラマンダーはワープを終えて、見知らぬ空間に姿を現 わした。 「追ってきたは良いが、ここは初めてだな」  トゥイガーが呟くと、 「周囲に反応ありません」  レーダー手のフローラ・ジャコメッリ少尉が答える。 「重力震を感知しました」  重力震とは、質量のある物体が爆発した時など、地震のように重力波(衝撃波) が伝搬する現象である。戦艦などが爆沈した時などに発生する。 「方角は?」 「ベクトル座標、x124・y236・z458です」 「よし、航路変更! 現場へ向かえ!」 「了解」  現場急行したところ、あたり一面に撃沈した艦の残骸が散らばり浮遊しており、 近くの恒星の重力に引かれて流れていた。 「戦闘は終わったのか?」 「どちらが勝ったのでしょうか?」 「残骸を確認しましたところ、アルビオン艦がほとんどのようです」 「奇襲を受けて、反撃の余裕もなかったか。それとも例の超能力ワープに翻弄され たのか?」 「その両方ではないでしょうか」 「左舷十一時の方角に戦火!」 「スクリーンに映してくれ」 「スクリーン望遠にします」  映し出された宇宙空間の中で戦っている艦艇の姿。 「アルビオン軍旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグです」  その周りを軽巡洋艦スヴェトラーナが、超能力ワープを駆使して攻撃を続けてい た。 「近づいてみよう。取り舵三十度!」  ゆっくりと転回しつつ、戦場へと向かうサラマンダー。  戦場の後背には、恒星の光を受けて緑色に輝く惑星があった。 「あの緑色は植物か、それとも鉱物か?」 「調べてみます」  生物学者のコレット・ゴベールが惑星地表を光学スペクトル分析を始めた。 「クロロフィルを確認しました。地表を多くの植物が覆っています」 「大気組成も動植物が生存可能な環境にあります」  大気を調べていた技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が報告する。  酸素21%、窒素77%、アルゴン0.8%、二酸化炭素0.04%などとなっ ており、地表温度35度、湿度20%、風速3m、恒星から受ける放射照度800 W/m2……と、一見地上で宇宙服を着こむことなく暮らすに十分な環境であった。
     
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