第九章・カチェーシャ
Ⅲ  司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐  副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉  技術主任 =ジェフリー・カニンガム中尉  ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ  ミュータント族前進基地クラスノダールに近づくトゥイガー艦隊。  エカチェリーナの水先案内で迷うことなくたどり着けそうだ。  彼女は、意外なことに盲目だが一度通ったルートを記憶のできる空間認知能力を 有していた。  失った視覚を補うように、耳の三半規管がジャイロコンパスのように機能してい るらしい。さらに重力波をも感知できて、敵の動きをも遠くから知ることができる。 「便利なものだな。彼らが有能な彼女だけを脱出させたのも理解できるな」  とのトゥイガー少佐の弁も納得できる。  サラマンダーのレーダーが惑星を探知した。 「まもなく前進基地クラスノダールです」 「基地の周辺を索敵だ!」  トゥイガーが指示を出すと、艦長が索敵機を出撃させる。  サラマンダーの発着口から艦載機が出撃していく。  エカチェリーナの探知能力を使用するには、それだけの精神力を消費するので、 虚弱体質の彼女に任せきりにするのは無理だ。 「基地の周辺には、艦影は見当たりません」 「恐れをなして撤退したか」  彼女の話では、基地にはまだ十六隻の艦艇が残っていたはずだが。 「そのまま哨戒行動を続けてさせくれ」 「了解、哨戒行動を続行します」  目の前には、敵基地惑星があった。  荒涼とした岩石惑星に 「衛星軌道に入ってくれ」  十数分後に軌道に乗る艦隊。  地上からの反撃はなく沈黙していた。 「ミサイルでも飛んでくるかと思ったが。ともかく地上を探査してくれ」  用心を期して、すぐには地上には降りない。  軌道をほぼ一周回ったところで、 「生命活動と思われる反応はありません」 「エネルギー探知機にも反応なし」  どうやら人っ子一人おらず、完全撤退を完了したようであった。 「ジョンソン、どう思う?」  副官に問いかけてみるトゥイガー少佐。 「ブービートラップが仕掛けてありそうですね」 「やはり君もそう思うか」 「ランドール提督なら、ただでは手渡さないでしょう」 「この岩石惑星は、居住には適さないが資源は豊富にありそうです」 「撤退したのなら、貰い受けてベースキャンプとして基地を建設すればよいな」 「まさか惑星ごと破壊する爆弾は仕掛けてないでしょうねえ」 「そこまでの科学力は発達していないだろ。せいぜい基地を自爆させる程度だな」  罠を警戒して、無人探査機が地上に降ろされた。  滑走路を進み、洞窟内へと進入する。  洞窟内の様子は、搭載のカメラからサラマンダーのモニターに映し出されていた。  人っ子一人いない構内をゆっくりと進む探査機。その起動音だけが静かな構内に 響く。  時折静止しては、周囲を丁寧に探査している。  動体反応感知、臭気感知、音響感知センサーを使用して、人や物の動き・火薬類 の有無、時限装置の時を刻む音などを調べ始める。 「誰もいませんね。すでに総員退去が完了しているようです」  と、探査機を遠隔操作している技術主任のジェフリー・カニンガム中尉。 「爆薬の信管はどのタイプだろうか? 時限式かセンサー式か?」 「遠隔ということもありますよ。基地に侵入したのを確認してからドカン!」 「遠隔なら、電磁波が出ているだろう。探知してみろ」  探査機からパラボラアンテナが突出して、くるくる回りながら辺りを探り始めた。 「反応ありました。出てますよ電磁波が」 「妨害電波を放射して遮断してみろ」 「妨害電波出してみます」  探査機から強力な妨害電波が放射される。  と、その途端だった。  モニターが閃光に焼かれ、探査機との通信が途絶えた。  サラマンダーのスクリーンには、敵基地が大爆発を起こして飛び散る様が映し出 された。  洞窟の入り口から爆風が飛び出し、岩山が砕け散った。  さらに滑走路も次々と誘爆して跡形もなくなった。  一瞬何が起こったのか?  というような表情の一同だった。  予想はしてはいたが、こうもあっさりと自爆しちゃったなという風だった。 「どうやら、起爆装置を解除・停止するなどの外部要因が加わると、起爆するよう でしたね」 「うむ。用心して正解だったな」 「ここは居住にはあまり適していない惑星ですね。どうなされますか?」 「それは本国が決めることだが……。ここから先に向かっても、居住可能惑星は既 に二つの国家のどちらかが開発済みになっているだろう。イオリスも先住惑星だっ たからな」 「この銀河のほとんどが移民済みで、双方の国が領土拡大に戦争をしているという ことですか?」 「そこへ我々も分け入って、三つ巴の戦いになるかも知れないな」 「天の川銀河の方では、やっと平和がやってきたというのに、こちらに来て再び戦 乱に巻き込まれるのですか……いやですね」 「人類のあくなき性というやつだ」
     
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