第九章・カチェーシャ
Ⅱ  司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐  言語学者 =クリスティン・ラザフォード  ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ  ミュータント族前進基地クラスノダールへと向かうサラマンダー。  遭遇戦の宙域から、敵が出現した方角へと向かうことにしたのだが、クリスティンが聞き出した情報から、その方角に敵基地があることが明確となったのだ。  サラマンダー艦内、自室にて報告書に目を通しているトゥイガー少佐。  隣の秘書室からのインタフォンが鳴り、来訪者を告げた。 『クリスティンがいらっしゃいました』 「おお、通してくれ」 『かしこまりました』  扉が開いて、エカチェリーナが座る車椅子を押して、クリスティンが入室してくる。  事前に捕虜であるエカチェリーナの自由行動の許可を得ている。 「どうやら進展があったようだな」  二人の顔を交互に見つめながら訪ねる少佐。  ある程度の内容は聞いてはいたが、直接聞きただすことも必要と思っていた。 「はい。改めて紹介します、エカチェリーナ・メニシコヴァさんです」 「エカチェリーナです、司令官さま」 「そう堅苦しくしないでいいよ。捕虜ではなく、客人として優遇するつもりだ。ゆっくりしていきたまえ」  それに呼応するように、秘書官がお茶とケーキをワゴンに乗せて持って来た。 「クリスも遠慮せずに座って食べてくれ」  クリスティンの愛称で呼ぶ二人の関係は幼馴染である。一方は軍人の道を進み、一方は学者の道を進んだので、主従の関係はない。 「はい、遠慮なく頂きます」  会議テーブルの椅子に座り、エカチェリーナにも食べられるように車椅子をセッチングしてあげた。  お茶の時間が済んで、改めて対面するトゥイガー少佐とエカチェリーナ。  通訳に回るクリスティン。 「我々の祖国についての質問だそうだが……さて、君たちの住んでいるこの銀河の隣に、別の銀河が存在するのは知っているかい?」 「はい、知っています。天の川銀河ですね」 「そう。我々は、その天の川銀河からやってきた。冷凍睡眠による宇宙航行してね」 「クリスから、伺っております」 「睡眠中は、自動航行システムで運行していたのだが、一隻の移民船が行方不明となった」 「行方不明ですか?」 「ここからは推測でしかないんだが、その一隻の移民船が何らかの影響を受けて次元の狭間に迷い込み、一万年前のこの銀河系に迷い込んできたんだ」 「一万年前?」 「君たちの太古の歴史というか神話を聞くと、およそ一万年前から始まるということだよね。突然、この銀河に現れたことだ」  一万年前と言えば、古代地球においては新石器時代に相当する。  猿人からネアンデルタール人もクロマニョン人の歴史的記録もなく、突如として新人類が出現している。  海の中で、最も単純な単細胞生物に必要な酵素が全て作られる確率は、十の四万累乗分の一。「廃材置き場の上を竜巻が通過した後で、ボーイング747ジェット機が出来上がっているのと同じような確率である」フレッド・ホイル  ならば、どこからかの移民入植と考えるのが自然であり、行方不明になっている開拓移民船の人々である可能性がある。 「はい」 「人類の進化の過程を考えれば、一万年で済むはずがないからな。結論を言えば、君たちと我々は同じ血が流れているということ。早い話が、我々はご先祖様ということさ」 「あくまで推測の域を出ませんけどね」  それから数時間、話し合いをする三人だった。 「さて、君の仲間との仲介と折衝役をやってもらいたいのだが」 「分かりました。私にできることなら、お役に立ちたいと思います」 「ありがたい。よろしく頼むよ」
     
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