第十六章 サラマンダー新艦長誕生
V 「さあ、時間よ。行きましょう」  パトリシアは少佐に昇進したとはいえ、新たなる任務を与えられていない以上、これまで通りアレックスの副官としての職務を引き続き果たさねばならない。作戦室の受け付けに座り次々と入室する幕僚達の名簿をとり案内役を務めた。  幕僚全員が集まった頃合を計ったようにアレックスがやってくる。 「全員揃っています」 「ごくろうさま」  いつものようにアレックスの後ろの副官席に腰を降ろすパトリシア。 「早速だが、新しい幕僚を紹介しよう。ウィンザー少佐」 「はい」  名前を呼ばれて立ち上がるパトリシア。 「知っての通り新任の幕僚となった。パトリシア・ウィンザー少佐だ。みんなよろしく頼む」 「よろしくお願いします」  といって深くお辞儀をするパトリシア。 「よろしく」 「頑張れよ」  という声がかかった。 「ウィンザー少佐には、私の席の隣に座ってもらうことにする」  それに対して一同が耳を疑った。  艦隊司令官の隣の席といえば、副司令官と艦隊参謀長というのが一般的常識であったからだ。  すでに右隣には副司令官のオーギュスト・チェスター大佐が着席していたが、現在艦隊参謀長の席は空位であり、これまで着席する者はいなかった。資格のあるゴードン大佐にしても首席中佐のカインズにしても、アレックスは参謀長として旗艦に残すよりもそれぞれ一万五千隻を有する部隊を直接指揮統制する分艦隊司令官に任命していたからだ。もう一人の大佐であるルーミス・コールは艦政本部長職にすでについていた。  では艦隊参謀長役をどうしていたかというと、定時的に開かれる作戦会議がそれを代行していたのである。与えられた任務に対してアレックスが作戦会議を招集する場合、例え一兵卒でも意見書・作戦立案書を提出して、会議に参加できるようオープンな環境を与えていた。  これまではそれがうまく機能して艦隊参謀長の必要性がなかった。正規の一個艦隊として編成され、より多くの艦艇及び将兵で膨れあがった現在、もはやそれをまとめる艦隊参謀長が必要になってきたのである。  いきなり隣の席を指示されて戸惑うパトリシア。 「どうしたウィンザー少佐。座り給え」 「は、はい」  おどおどしながらもアレックスの左隣に着席するパトリシア。 「さて、私がウィンザー少佐に隣の席を指示して、皆驚いているようだが……。察しのとおり、私は彼女を艦隊参謀長につけることにした」
     
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