第十五章 収容所星攻略

                IV 「敵の奇襲を受けることはないだろうな」  回想を終えて、パトリシアの采配振りに感心しているカインズだった。  三隻のP−300VXを連れて行くことを許可申請した時点で、任務の重大さを認 識していたようだ。  キャブリック星雲会戦では、情報が敵艦隊に漏洩して待ち伏せを受けていた。ラン ドール司令を煙たがるニールセンが意図的に流したのだろう、との噂が艦隊士官達の 間で囁かれていた。今回の任務もニールセンが絡んでいる、当然同様のことが起きる 可能性は高いだろう。  おそらくパトリシアもそう考えていたのであろう。完璧な哨戒布陣を敷いて、万難 を排して事にあたるという慎重な態度は、ランドール司令が艦隊参謀長に推すだけの ことはあると、カインズは実感していた。  ともかくもレイチェルが掴んでいた情報と、パトリシアが推論した結果と、今回の 作戦任務が仕組まれた罠という点では一致しており、どちらが正しくて間違っている とに関わらず、対処すべき行動指針では同じ結果をもたらすことになった。  何も知らないで無防備でいると、連邦軍の奇襲を受けて痛い目に遭わされる可能性 が高いということである。  艦内に警報が鳴り響いた。  オペレーターが一斉に正面スクリーンに視線を向けた。 「敵艦隊発見! P−300VX三番艦アポロンより通報。五時の方角12.5光秒に敵 艦隊を確認しました!」  そのスクリーンに、哨戒艇から送られてきた敵艦隊の艦影が投影された。なおアポ ロンとは哨戒艇三番艦の哨戒作戦用の暗号名である。他の哨戒艇にも同様にギリシャ 神話の神々の名前がつけられている。 「敵艦隊の艦艇数、およそ千五百隻!」  すかさず指令を出すパトリシア。 「全艦戦闘配備! 艦載機、全機発進準備!哨戒艇三番艦に敵艦隊との接触を維持、 データを逐次報告させよ」  オペレーター達が、すぐさま復唱しながら命令を伝達する。 「アポロンへ伝達、敵艦隊との接触を維持しつつ、データを逐次報告せよ」  索敵レンジの違いとその特殊性能から、哨戒艇が敵艦隊に発見、攻撃される懸念は なかった。戦艦百二十隻分もの最新鋭のテクノロジーを満載した艦艇ゆえの配慮だっ た。 「全艦、戦闘配備完了しました」 「よろしい。艦載機、全機発進! 母艦に追従して待機」 「やはりいたか……どうやら奇襲だけは避けられたようだが。さてこれからどう戦う かだな」  パトリシアは実戦の指揮を執ったことがない。  果たして適時適切な指令を下すことができるか。  オペレーター達は、カインズを見つめていた。パトリシアに代わって指揮を執るの ではないかと判断したからだ。  しかしカインズは動かなかった。  パトリシアが降参して指揮権の委譲を願い出るまでは、口を出すつもりはなかった。 ランドール司令が情報漏洩の可能性を示唆しながらも送り出した相手である。敵艦隊 との交戦にも十分堪えうる能力を有しているはずだ。 「敵艦隊の戦力分析図を出して」 「戦力分析図を出します」  スクリーンに敵艦隊の艦隊構成が表示された。 「戦艦550隻、巡航艦600隻、駆逐艦400隻、フォレスタル級攻撃空母50隻です。搭載 艦載機の推定は、およそ4000」  一般的な一個艦隊編成であった。  対してこちらの第十一攻撃空母艦隊の勢力は、巡航艦300隻、駆逐艦150隻、セイ レーン級及びセラフィム級軽空母900隻であった。  こちら側は戦艦を所有していない分火力には劣るが、空母搭載の航空機の数では、 敵艦隊の4000機に対して、12000機と圧倒的な航空兵力の差があった。しかも足の速 い艦艇ばかり揃っている。  当然戦いの中心は、艦隊戦を避けて艦載機による空中戦となる。 「艦載機、全機突撃開始」  一斉に敵艦隊に向かって突撃開始する12000機にも及ぶ艦載機の群れ飛ぶ姿は壮観 であった。穀倉地帯などで時おり見られるバッタの大群にも似て、その群れ自体が巨 大な怪物のようにも思えるほどであった。 「敵戦艦の諸元表を出してください」  スクリーン敵戦艦のデータがスクロールしながら流れる。  パトリシアが特に注目しているのは、敵味方の艦艇の速力である。連邦軍の速力は 平均して35スペースノット、対してこちらの速力は約40スペースノットであった。 「速力ではこちらに分がありそうですね。敵主砲の射程外に距離を保って艦載機で攻 撃するに限りますね」
     
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