第十五章 収容所星攻略
V 「P−300VXを三隻か……」  カインズは思い起こしていた。  パトリシアに査問委員会の決定が伝達され、全員が退室した司令官室に、レイチェ ルと共に残されていた。 「話は他でもありません。パトリシアに与えられた指令ですが、収容所の捕虜はすで に他に移送されていることが、レイチェルの情報部がすでに掴んでいます。しかも今 回の作戦の情報が敵情報部に漏洩していて、迎撃部隊がタシミールへ差し向けられた ようです」 「なんですって!」  驚いてレイチェルを見つめるカインズ。それに応えるように発言するレイチェルだ った。 「どうやら今回もニールセンの差し金のようですね。タシミールにある収容所の捕虜 救出を目的とした、今回の査問委員会による作戦行動の情報を敵側に流して、これを 迎撃させて司令の懐刀であるウィンザー大尉を抹殺するつもりなのかも知れません」 「大尉は知っているのですか?」 「いや、知らせてはいない」 「どうしてまた?」 「パトリシアにはいい経験になると考えたからだよ。何も知らされなければ、第十一 攻撃空母部隊は間違いなく敵部隊の奇襲を受けるだろう。それをどう察知し回避でき るか、今回の作戦はパトリシアに対する試練と考えている。ニールセンがお膳立てし てくれた作戦だ。せっかくだから役に立たせてもらうよ」 「どうやら司令は、大尉が与えられた試練を克服して、無事に帰還できると確信して おられるようだ」 「いくら昇進が掛かっているとはいえ、全滅しかない作戦には派遣させるわけにはい かない。パトリシアには、危険を回避し逆襲する作戦を考えうるだけの能力を有して いる。作戦指令にはなかった、敵艦隊との遭遇会戦となってどう対処するか。その能 力を十二分に引き出せる機会だと思う。だからこそ行かせるのだ。万が一にも敵部隊 との交戦が手に余り、パトリシアが指揮権の委譲を願い出るまでは、君には一切口出 ししないでもらいたのだ」 「それは構いませんが……」 「これはゴードンにも知らせていないので他言無用でお願いしたいのだが、無事に作 戦を終了して帰還し、少佐への昇進を果たした際には、艦隊参謀長に就いてもらおう と思っている」 「現在空位となっている、艦隊参謀長ですか? そんなオニール大佐にも知らせてい ない重要なことをどうして私に?」 「パトリシアを任せるのだからね。すべてを知っておいてもらいたいと思っているか らだよ」 「なるほど、艦隊参謀長という大役に就けるだけの能力があるかどうかを確認するた めにも、今回の任務を与えられたというわけですか」 「まあ、そういうことになるかな」 「判りました。すべてを納得した上で指導教官の任務につきましょう」 「よろしく頼むよ」  カインズは理解した。  今回の作戦は、パトリシア大尉の昇進試験ではあるが、その指導教官に自分を指名 したのは何故か? ということである。  懐刀であるパトリシアであるだけに、最も近しいゴードンの方が適任であるはずだ。  カインズ自身も大佐への昇進に漏れてしまった身分である。  自分自身の昇進試験でもあるのではないかと。
     
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