第十四章 査問委員会
Z  士官学校の話題にしばし心和む時間を有していたパトリシア達。  それを打ち消したのがジミーだった。 「ところで本題に戻るけど、敵艦隊が待ち受けしているとの噂がある。それが本当だ として、勝算はありそうかい?」 「これだけは何とも言えません。敵艦隊のことは、あくまで噂や憶測でしかありませ んから。想定されるあらゆる可能性を考慮に入れて、作戦プランを練ってはおります が」 「そうか……それを聞いて安心したよ。パトリシアが考え出した作戦なら確かだから な」 「買いかぶらないで下さい。緊張しちゃいますよ」 「何を謙遜しているんですか。みなさん期待しているんですからね。早く少佐になっ てアレックスを作戦面でバックアップしてあげなさいよ」 「努力致します」 「うん。その意気でいきな」  気楽な表情で語り合っている三人であるが、いざ敵艦隊との戦闘になれば、先頭を 切って飛び出し生死を分けた戦いに駆り出されるのは必至である。それだけにその陣 頭指揮を執るパトリシアに対しては万感の思いを持っているに違いない。  何にせよ、アレックスとその参謀達への信頼は揺るぎのないものであった。 「ウィンザー大尉。そろそろ艦橋に参りましょう」 「あ、はい。そうしましょう」  いつまでも語り合いたい心境ではあったが、出撃予定時間が迫っていた。 「頑張れよ」 「戦闘に関しては、俺達にまかせてくれよな」 「はい。よろしくお願いします」  軽く敬礼して、パイロットの控え室を退室するパトリシアとリンダ艦長であった。  エレベーターの所まで戻ってくる二人。 「このエレベーターを昇ったところが艦橋です。参りましょう」  エレベーターを昇り詰めた先に、セイレーンの艦橋があった。  入室してきたパトリシアを見て、一斉に立ち上がって敬礼をするオペレーター達。 「何してたのよ。遅かったじゃない」  リーナがリンダに耳打ちするように叱責している。 「ごめんなさい。ちょっとジミーさん達と」 「あのねえ……あなた艦長でしょう。責任者としての地位にあるものが、任務を忘れ てどうするのよ。艦内における指揮官の行動を把握して、十二分に采配を振るえるよ うにして差し上げるのが艦長の役目でもあるのよ。それを……」 「済みませんでした。以後気をつけます!」  少し悪戯っぽい口調で答えるリンダ。 「まったくう……。これで艦長だって言うんだから、呆れるわ。いいわ、席に着きな さい」 「はーい」  スキップするような足取りで艦長席へ向かうリンダであった。 「全然、反省してないわね……」  呆れ顔のリーナ。 「さてと……」  と、ここで真顔に戻ってパトリシアを見やるリーナ。 「ウィンザー大尉。そろそろ出航の時間です。指揮官席にお座りください」 「そうですね……。判りました」  甲斐甲斐しく働くオペレータ達の動きや、パネルスクリーンに投影された各艦の様 子を見つめていたパトリシア。リーナの進言を受けて静かに指揮官席に腰を降ろした。 その傍にリーナが副指揮官として立ち並んだ。 「中佐殿に連絡して」  リーナが指示し、スクリーンにカインズが映し出された。 「準備完了致しました。こちらへお越しください」 「判った。今から行く」  やがてパティーを連れてカインズが艦橋に現れた。 「これより、査問委員会の命を受けてパトリシア・ウィンザー大尉の佐官昇進試験の 一環として、タシミール星にて確認された収容所からの捕虜救出作戦に出撃する。パ トリシア・ウィンザー大尉。指揮を執りたまえ」  そして艦橋の後方に誂えた教官席に腰を降ろした。 「了解しました」  指揮パネルを操作して、艦隊運行のシステムを立ち上げるパトリシア。 「現在の艦隊の状態を報告して下さい」 「全艦の状態は良好です。いつでも出航可能です」 「よろしい。そのまま待機せよ。全艦放送の用意を」 「全艦放送の用意は完了しています。どうぞ」  声を整えて静かに言葉を告げるパトリシア。 「全艦の将兵に告げる。これより第十一攻撃空母部隊は、タシミール星にあるとされ る収容所の捕虜救出のために出撃する。各将兵達の奮闘を期待します」  艦内のあちらこちらで、パトリシアの出撃に向けての放送に耳を傾けている将兵達。 その表情には心配の陰りを見せてはいなかった。我らがランドール提督が差し向けた 指揮官に、不安の種などあるはずもないと信頼しきっていたのである。 「出撃の時間です」  パティーの報告を受けて、後ろを振り返るパトリシア。 「カインズ中佐。よろしいですか?」
     
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