第十四章 査問委員会
Y  発着ベイのほぼ中央に来たところで立ち止まるリンダ。 「今立っているところは、艦載機が発着する場所です。この艦に代表されるセイレー ン級の軽空母は、より多くの艦載機を搭載するために、発艦と着艦を兼用しています。 ですからしっかりとした管制が必要です。発着の管制を行なっているのがあちらで す」  と入ってきた入り口の上の方にあるガラス張りの部屋を指差した。  その部屋の中にいる一人の女性士官が手を振っているのが見える。 「彼女がここの発着管制の責任者のソニア・ビクター中尉です」  パトリシアが改めて視線を送ると、軽く敬礼しているのが見えた。軽く敬礼をして 返すパトリシア。 「さて、ご覧の通りに周囲の壁際に艦載機の格納庫があります。自動格納システムに よって出し入れを行ないます。搭載機数は三十機です。主戦級の攻撃空母の搭載機数 の平均百二十隻に比べると見劣りはしますが、高速性を出すためにエンジン部に艦体 の容積をよけいに配分した結果そうなったようです。その分を軽空母の数を増やして カバーしております」 「艦の速力は?」 「艦載機の搭載状態や燃料・弾薬の備蓄量で変化しますが、満載状態で四十五スペー スノットです。ちなみに新型艦のセラフィム級軽空母では五十スペースノットで、ド ライブスルー形式で発艦と着艦を同時に行なうシステムを用意しており、着艦ベイか ら発艦ベイに移動する間に、弾薬や燃料の自動補給が可能です。効率的な発着を行な うために発着ベイの容積も最小限で抑えられています。その分搭載機数も四十機と増 えております。艦の設計はフリード・ケイスン大尉です」 「なるほど、フリードさんだけあって、さすがですね。無駄な設計をなさらない」 「まったくです。技術革新というと大概ケイスン大尉のお名前が挙がりますね」 「天才科学者の本領発揮というところですか」 「そうですね。それではパイロットの控え室を紹介しましょう」  発着ベイから控え室へと移動する二人。  そこにはジミー・カーグとハリソン・クライサーの両撃墜王が待機していた。 「あら。ジミーさん、ハリソンさんもいらしたんですか?」 「よお、パトリシアか。少佐への査問試験だってな」  ジミーが親しげに話しかけてきた。士官学校時代の先輩後輩の間柄である。もちろ んパトリシアを二人に紹介したのはジェシカ。 「はい」 「さすがにアレックスが目を掛けただけのことはあるな」  ハリソンが言葉を繋げる。 「お二人だって少佐になられて、ご活躍なされているじゃありませんか」 「あはは。まあ、アレックスのおかげで何とか昇進しているってところかな」 「で、噂ではまたニールセンの野郎が何か企んでいるらしいな」 「そうそう、ほんとなのかい?」  いきなり話題を変えてくる二人だった。 「それは何とも言えません。噂は噂ですから」 「火のないところに煙は立たずだろう?」 「ええ……まあ。それはそうですが」  自分も考えてはいたことではあるが、面と向かって肯定などできるわけがなく、言 葉を濁すしかなかった。  三人が仲良く会談しているのを、邪魔しないようにしながら自動販売機で飲み物を 買っているリンダ艦長。やがてカップを両手に二つ抱えて戻ってきて、その一つをパ トリシアに差し出した。 「どうぞ」 「あ、ありがとう。頂きます」  カップを受け取って一口。 「おいしい!」 「インスタントだけど意外とおいしいんですよね。これジェシカの好みなのよね」  リンダが解説している。これまで敬語を使っていたリンダであるが、同じ士官学校 出という事もあり、ジミー達を前にして親しげな態度に変わっていた。 「こうしていると士官学校の学食を思い出しますね」 「これでアレックス達がここにいれば完璧だ。何で一緒に来なかったんだ」 「それは無理ですよ。直属の上官や関係の深い士官は同行できないことになっていま すから」 「残念だな……」  しばらく無言で士官学校時代を懐かしむ雰囲気が漂っていた。  その頃、セイレーン搭乗口に遅れてやってきた一団があった。  カインズとパティー・クレイダー、その他の査察監察官であった。 「ようこそお出でくださいました。カインズ中佐殿」  ジャネットとセイレーン副艦長のロザンナ・カルターノ中尉が出迎えていた。 「ウィンザー大尉は?」 「艦長が案内して艦内の視察をされてます」 「そうか……。まあいい、我々の部屋に案内してくれ」 「かしこまりました」  先に立って案内するロザンナ副艦長。 「それにしても……ここは相変わらず女性ばかりだな」 「ええ、まあ……戦術士官(commander offiser)は全員女性ですね」 「ジェシカの志向なのか、それとも提督の指示なのか……」 「両方なんでしょうね。フランドル少佐は、より多くの女性に活躍の場を与えたいと 日頃からおっしゃってましたし、提督も能力のあるものなら男女を問いませんから ね」 「その結果がこれか……自由な風潮があるとはいえ、私には馴染めない環境だ。かと いって女性蔑視というわけではない。個人の趣向の問題だ」  ドリアード艦橋の女性オペレーター達を見て判るように、男女の能力には差は見ら れない。逆に女性特有な細やかな心配りに感心させられる事もある。それこそが提督 が意識して女性を優先的に配属させている所以なのかも知れない。
     
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