第十七章 決闘
Ⅳ  炎上するシルバーウィンド。 「弾薬庫がやられました! 火災発生!」 「消火急げ!」  艦内を弾薬庫へと急ぐ消火班。  しかしあまりの惨状に消火を諦める。 「これはダメだ!」  すぐさま艦橋へと報告される。 「そうか……これまでだな。機関停止して投降信号を打ち上げろ!」 「機関停止!」 「投降信号打ち上げます」  シルバーウィンドから投降信号が打ち上げられる。  それに答えるようにサラマンダーからも戦闘停止信号が上がった。 「よし。向こうも気づいたようだ。通信士は後方の艦隊に救援を頼んでくれ」 「了解しました」  救難信号を打電する通信士。 「それと、サラマンダーと繋いでくれ」  呼び出されたアレックスが、通信用スクリーンに出ている。 「御見それいたしました。降参です」 『いやいや。こちらも最後の切り札を使わなければ勝てませんでした』 「確かに、円盤部を切り離すなんて考えもしませんでした」 『また後日会いましょうか』 「そうですね。ではまた」  通信が切れる。 「それでは、総員退艦せよ」  ミサイルなどの弾薬に火が付けば、ほとんど消火は不可能である。それらには酸化剤が入っていて、水の中でも真空中でも燃え上がり爆発する。  弾薬庫の誘爆が艦全体に回る前に脱出しなければならないようだ。  総員の退艦が始まる。  脱出用の舟艇に乗り込み、次々とシルバーウィンドを離れる乗員たち。  その様子を艦橋から見つめているスティール。 「閣下もご退艦を」  副長が促す。 「分かった」  艦と共に自沈するという気概は持ち合わせていないので、素直に退艦に同意するスティール。  ただ、これまで自分と共に生死の縁を渡ってきた愛着のある艦を見捨てるのが口惜しいだけだ。  サラマンダー艦橋。 「敵艦、乗員たちが次々と脱出しているようです」 「後方の艦隊宛、救援要請が発せられています」 「そうか。なら、こちらから救援する必要はないな」 「収容するスペースもありませんから」 「こちらも救援を頼みましょう。退艦するほどではありませんが、損傷が激しくて自力航行は厳しいです」 「そうだな。そうしてくれ」  後方に待機している艦隊に連絡する通信士。 「改めて人的被害と艦内の損傷個所を詳しく調査してくれ」  艦内、負傷者を運ぶ兵士たち。  担架に乗せられて運ばれる兵士、肩を貸してもらっている兵士、壁にもたれて治療を受けている兵士。  しばらくして損害報告が届けられる。 「……以上です」  勝利したとしても、こちらの損害も甚だしかった。  報告書に署名して返す。  やがてサラマンダーの円盤部と共に、救援艦隊が到着した。  修復を終えた円盤部が前方部と合体し、本来の姿を取り戻した。 「第一艦橋へ戻ろう」  しかし転送装置が故障していた。 「しようがない。ドッキングベイから行こう」  重力のない前方部を空中浮遊しながら円盤部との接合部分へと向かう。  円盤部の第一艦橋に戻ると、指揮を執っていたハワード・フリーマン少佐が出迎えた。 「お疲れ様です。艦の損傷個所は応急処置で航行可能まで修復できています」 「ご苦労様」  パトリシアがトレーを運んでくる。 「お食事はいかがですか?」 「おお、丁度腹が減っていたんだ」 「ご無事でよかったです」  サンドイッチを頬張りながら、指揮パネルを操作するアレックス。 「指揮権を交代する」 「アレックス・ランドール ト カクニンシマシタ。シキヲドウゾ」 「よし、全艦帰投する」  ゆっくりと動き出すサラマンダー艦隊だった。 第十七章 了
   
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