第十三章 カーター男爵
Ⅲ
捕えられたカーター男爵は、ペラペラと摂政派の内情を話し続けた。
海賊や本拠の基地の所在や、公爵とドレーク提督の関係まで、聞きもしないことを吐き続けた。
そのほとんどが既にこちらでも手に入れていた情報であった。
男爵は、そうとは知りつつも自らは情報提供者という演出をしたかったのあろう。
「男爵をどう思われますか?」
「所信をコロコロと変える人物は信用なりませんね」
「ではどうなさりますか?」
「言質はとってあるし、公爵のところに返してあげましょう。ここに置いておいても役に立つとは思えません。かえって、こちらの情報が洩れる可能性もありますから」
「そうですね。ああいう輩は、自分の都合で簡単に仲間を裏切るものです」
数時間後、男爵は解放された。
自分の艦に戻った男爵。
「公爵の元に帰るぞ!」
敵の捕虜になったことは知られているだろうから、普通の神経を持っていたら、いけしゃしゃあと戻る気にはなれないだろうが。
しかし腰巾着を長年続けてきた男爵の意識には、遠慮というものは存在しないのだろう。
公爵邸に舞い戻った男爵は、平然と報告をする。
「海賊基地は崩壊し、ドレーク提督は殉職されました」
「そうか……。海賊の末期だな」
意外と冷淡な返答をする公爵。
「それで、捕虜になった時に喋らなかっただろうな?」
突然追及してくる。
しどろもどろになりながらも言い訳を繰り交ぜて報告する男爵。
「まあいい。捕虜になった以上、解放されるためにはあらゆる努力をするのは同然だ。」
自らが率いる摂政派は戦争経験のない貴族ばかりで、いざ戦いとなるとへっぴり腰になるのは目に見えている。
一方の皇太子派は戦争経験も豊富で、何より共和国同盟の英雄が指揮する精鋭部隊ばかっりだ。
戦いに持ち込むことなく、政争で勝ちにいくしか手段はない。企てと根回し、いわゆる多数派工作というやつである。
となると公爵としても、一人でも多くの賛同者が欲しいはずだ。
たとえスチャラカ男爵だとしても、無碍には放り出すことはできないのだろう。
「ともかくドレーク提督が逝ってしまった以上、体制を立て直さなくてはならない。お主にも協力してもらうからな」
「もちろん喜んで協力させて頂きます」
「第一艦隊の司令官も選任しなければなるまいが……。それにしても、海賊との関係を知られた以上、これまで以上に慎重な行動を取るしかない」
「奴らが、未だにその件を公表していないのは何故でしょうか? スキャンダルの何ものでもなく、奴らにとっては好材料のはずだと思うのですが……」