第十章 氷解
X  アスレチックジム。  カテリーナは、天井の張りにロープを掛け、首吊り死体となって発見された。  不審な状況証拠は一切見られず、自殺としか考えられなかった。  現場に到着して、その遺体の検分に当たったコレットは地団駄を踏んでいた。 「口封じか……」  共犯者にしてみれば、どじ踏んで殺人を露見させてしまった相棒を、いつまでも生 かしておくわけにはいかないだろう。捜査が進めばいずれ自分に捜査の手が回ってく るのは必至だからだ。  カテリーナの影にあってスパイ行為をなさせた相手。これほどまでに自分の存在を 微塵も見せていないとは、相当のプロの仕業だ。カテリーナを自殺に見せかけて処分 することぐらいは朝飯前だ。どんなに探ってもダニ一匹出てこないだろう。 「もう少し早く判っていれば、逮捕拘禁していれば……」  後悔しきりのコレットであった。  死人に口なし。  容疑者が死んでしまっては、捜査もここで終了だ。  報告書をまとめるために最後の証拠合わせをするために、かの放送局員を尋問する ことにした。  ディレクターのアンソニー・スワンソン中尉は告白した。 「もうしわけありません。おっしゃる通り、毎日・毎時ここから放送製作しているわ けではありません。サラマンダー以外の準旗艦にも、ここと同様な設備がありますか ら、それぞれ順繰りで日時を決めて、統一放送をする時があるんです。例えば他の準 旗艦が担当放送局の時間には、その放送を受信してそのまま艦内に流していた訳です。 ですから担当放送日時でない時は、調整室員以外は暇なんです。だから、時々交代で 抜け出していたんです」 「なるほど……。それで事件当時は丁度統一放送になっていて、抜け出していたのが、 カテリーナですか?」 「はい、そうです。恋人に会いにいくと言っていました。それで、いつものように口 裏合わせしていたんです。お互い恋人を持つ身、その気持ちはよくわかりましたから。 しかしまさか殺人を犯していたなんて知りませんでした」  念のためにその男のことも尋ねてみる。 「いいえ。何も聞いていませんし、会ったこともありません。相手の事を聞くと、お 茶をにごしていました」 「相手が複数ということは?」 「カテリーナは潔白なところがあるから、一人の男性に熱を上げることはあっても、 複数の男性と交際することはないと思います」  アンソニーは弱々しい口調で尋ねてきた。 「あの、やはりこの件も報告するつもりですか?」 「ランドール司令は、非常に勘が鋭く頭の切れる方です。カテリーナが犯人と知って、 とっくに気づかれていると思います。規則には厳しい方ですから、それなりに罰せら れるでしょう。覚悟しておいた方がいいでしょうね」 「わかりました……」
     
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