陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊
其の廿壱 飛鳥板蓋宮跡へ
「遅かったか……」
蘭子と井上課長が到着したのは、五分後のことであった。
「いえ、まだ反応はありますよ。追いかけましょう」
現場警察官が留めようとするので、
「任務遂行中だ!}
警察手帳を見せて先を急ぐ。
警視という階級を確認して、直立不動になって敬礼する警察官。
ヒラの巡査にとって、キャリア組の警視という階級は雲の上の存在。
布都御魂の導きに従って、犯人を追跡する二人。
「どうやら飛鳥板蓋宮跡へ向かっているようです」
「入鹿が暗殺されたという現場か?」
「怨念が封じ込まれた剣と、怨念が自縛霊となっている場所。相乗効果がありそうです
ね」
「のんきな事を言っている場合か。昼間行った時には何事もなかったよな」
「時刻が問題なんです。鬼門の開く丑三つ時……」
「なるほどね。相手は時間と場所を選んだというわけか」
その後しばらく無言で走り続ける二人。
数分後、飛鳥板蓋宮跡の入り口へと到着する。
井上課長は胸元の拳銃、SIG SAUER P230 を取り出しマニュアルセーフティーを解除
して、いつでも発砲できるようにして再びホルスターに戻した。
発砲といっても、米国のように無条件で撃てるのではなく、正当防衛かつ緊急事態に
のみ発砲が許されている。例えば、犯人が蘭子に襲い掛かり正に刀を振り下ろそうとし
た瞬間とかである。
慎重に跡地内へと入っていく二人。
周囲に照明となるなるものがないために、ほとんど暗闇状態で星明りだけが頼りだっ
た。それでも暗順応とよばれる視力回復が働く。
陰陽師として深夜半に行動することが多い蘭子は、霊を見透かす霊視に加えて、周囲
の状況を見ることのできる暗視能力にも長けていた。
暗順応:
角膜、水晶体、硝子体を通過した光は、網膜にある視細胞で化学反応を経て電気信号
に変換される。視細胞には、明暗のみに反応する約1億2000万個の桿体細胞と、概ね3種
とされる色彩(波長)に反応する約600万個の錐体細胞がある。光量が多い環境では主
として錐体細胞の作用が卓越し、逆に光量が少ない環境では、桿体の作用が卓越する。
夜間などに色の識別が困難になり明暗のみに見えるのは、反応する桿体の特性である。
桿体、錐体ともに一度化学反応をすると、再び反応可能な状態に復帰するまでにはある
程度の時間が必要である。視界中の光量が急減した場合に一時的に視覚が減退するのは、
明所視中において桿体細胞内のロドプシンのほとんどが分解消費してしまっており、桿
体細胞が速やかな反応のできない状態になっているからである。暗い環境の中で時間が
経過すると、ロドプシンが合成されて桿体細胞が再び反応できるようになり、視覚が働
くようになる。 明順応に対し、暗順応に時間がかかるのは、ロドプシン合成の方がロ
ドプシン分解に比べて長い時間を要するためである。wikipediaより
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