陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊

其の拾玖 銃砲刀剣類所持許可証 「布都御魂……だっけ。そんな錆びた剣が役に立つのかね」 「神様が遣わしてくれた霊剣ですからね。きっと役に立ちますよ」  ここで問題となるのは、布都御魂が日本刀などの銃砲刀剣類が適用されるかである。  銃砲刀剣類に関しては、日本刀など文化財としての教育委員会のものと、警察官携帯 の拳銃など武器としての公安委員会のものと、二種類の登録制度がある。  銃砲刀剣類所持等取締法第14条に該当するものは、美術品・骨董品として価値ある ものとして、都道府県教育委員会に登録申請する。  少なくともこの布都御魂は、錆びて朽ちており美術品としては該当しないだろう。  今の時点では、御神体として奉納する価値はあるかもしれないが、石上神宮の対応次 第である。  ともかくも刀剣であることには違いないので、都道府県公安委員会の銃砲刀剣類所持 許可手続きは必要であろう。 「しかし……お堅い公安委員会の許可証が取れるかが問題だな。未成年だしな。ともか くその剣を持ち歩くに当たって、まずは石上神宮のものとして刀剣類発見届出書を提出 して、入手した上で、申請しなくてはならない。そして人目につかないように、剣道の 竹刀鞘袋にでも入れて持ち運ぶことだ」  井上課長は、大阪府警捜査第一課長の身分を最大限に利用して、捜査協力のためとし て事件解決までの期間限定の特別所持許可証を手に入れてくれた。また奈良県警捜査第 一課長の綿貫警視も一役買ってくれた。  もっとも変死事件があれば、怨霊や陰陽師の仕業と噂される古都奈良特有の事情もあ ったのだろうが。  ちなみに古都とは、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」に規定さ れる京都市・奈良市・鎌倉市の他、同法の第二条第一項に定める政令で天理市・橿原 市・桜井市・斑鳩市・明日香村・逗子市・大津市などが挙げられる。 「これが許可証だ。剣と共に肌身離さず持っていてくれ」 「分かりました」  さて、蘭子は陰陽師としての行動をする時、御守懐剣「虎撤」を携行しているが、  銃刀法第22条「業務そのた正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めると ころにより計った刃体の長さが6CMをこえる刃物を携帯してはならない。以下略」  または軽犯罪法第1条1項2号「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害 し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた 者」  とあるとおり、陰陽師としての業務遂行のために所持しているので、一応違反とは言 えない。  もっとも昇進のための検挙率を稼ごうと、何が何でも違法だと決め付けて検挙しよう とする、根性腐った悪徳警察官も多いので要注意である。  陰陽師の仕事は、夜半がメインである。  夜中に出歩いていれば、警察官の職務質問に遭遇することもあるだろう。 「バックの中身を見せてください」  と、所持品検査もされる。  職質も所持品検査も任意なので断ることができる。  警職法2条3項、「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、 又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行されることはない」  と、刑事訴訟法によらない強制の処分を禁止している。  ところが、根性腐った悪徳警察官は、わざと腕を掴んだり、前に立ちはだかるなどの 行動をとり、うざいからと、手を振り払ったり、警察官の胸を押したりすると、 「公務執行妨害だ!」  と大げさに、警察官に暴行を加えたとして、現行犯逮捕される。  こんな場合は、 「違法行為はやめてください!」 「いやです!」 「手を離してください!」  と大声を張り上げて、毅然とした態度で対応するのが正しい。  サッカーなどの試合で、審判に抗議する監督などが、退場処分にならないように、決 して手を挙げないのと一緒である。  井上課長が所持許可証にこだわったのは、そういう警察の事情があるからである。  布都御魂を収める竹刀鞘袋を、奈良県警察署道場の講武会から借りてくれた。
     
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