陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊

其の捌 突入  容疑者Aの部屋の前で一旦止まる突入班。 「相手は殺人犯かもしれないから、銃を用意しておけ。場合によっては発砲も許可す る」 「はい」  胸元のホルスターから銃を取り出して構える刑事達。 「行くぞ」  一応礼儀として玄関チャイムを鳴らす。  が、しかし反応はない。  三度鳴らしたが相も変わらず。  ドアに耳を当てて中の様子を探るが物音一つしない。 「管理人を呼んで来い」  下に待機させておいた管理人が呼ばれる。  合鍵を使って開けようというわけだ。  鍵が解錠される。 「あなたは下がっていて下さい」  鍵が開けば取りあえずは、管理人には退避してもらう。 「行くぞ!」  慎重に扉を開けて、中に突入する一行。  警戒しながら各部屋を捜索開始。 「誰もいません」 「そうだな……」  誰もいないことを確認して、警戒体制から通常捜査体制に移行させた。 「鑑識を呼んで来い。ああ、それから蘭子さんもだ」  ここからは刑事ドラマで見慣れた場面となる。  入室してきた蘭子は、その様子を見てふむふむと納得している。 「どこにも触らないで下さい」  鑑識が注意する。 「わかりました」  やおら携帯を取り出して、とある番号に掛ける井上課長。  ややあって反応が返ってくる。  ベッドの下でコール音が鳴り出したのである。 「やはり、あったか」  鑑識がベッドの下に潜ってスマートフォンを取り出した。 「このスマホ、聡子さんのものに間違いありませんか?」  と言われても、スマホなんてみな似たり寄ったりだし……  コール音で反応したのだから、電話番号は間違いなく聡子のもの。  だが、携帯ストラップには見覚えがあった。  ハローキティ こうのとりキティ 根付けストラップ。  コウノトリがキティーちゃんを運んでいるもので、くちばしが折れると妊娠すると噂 されている。 「聡子のものだと思います」  所持者の鑑定など警察ならお手の物、一応の確認だろう。 「ところで……妖気とか感じないか?」  井上課長が蘭子を同行させた理由がソコにあったわけだ。  この事件は「人にあらざる者」が関わっている可能性が大だからである。  実は入室した時からずっと精神感応で妖気を探っていたのだが、 「感じません……」  と一言だけ。 「そうか」  と井上課長も短く答えた。 「ま、そうそう事がうまく運ぶものでもないからな」 「そうですね」 「さて、今日はここまで、自宅に送るよ」  数日後、井上課長から警察本部に呼び出された蘭子。  捜査用のパソコンの前に座る二人。 「京都府警に応援を頼んで、京都文化博物館と周辺の防犯カメラの映像を調べて貰った のだよ」 「聡子の足取りを?」 「そうだ。で、興味深い記録が残っていた」  マウスカーソルで画面をクリックしながら、記録映像を閲覧する。  国宝や重要文化財などが展示されている館内防犯カメラだけに、映像は鮮明で来館者 の表情までくっきりと映っている。 「まずはこれだ」  ガラスケースの前で、チラシ片手に刀剣を眺めている人物の動画が再生される。 「聡子!」  というところでポーズが掛けられ、クローズアップされる。  間違いなく聡子であった。 「続けるよ」  ボーズが解除されて再生は続く。  やがて聡子に近づく人影。  肩をポンと叩かれて振り返る聡子。  その相手は?  再度ポーズからクローズアップされる。 「容疑者Aだよ」  その顔は蘭子の見知らぬ人物であった。 「協力して貰っている以上、実名を知らせても良いだろう」 「実名ですか?」 「石上直弘、氏は石の上と書いて(いそのかみ)と読む」 「石上(いそのかみ)!それって物部氏の後裔じゃないですか」
     
11