陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊

其の漆 スマートフォン  金沢家を退出する二人。  表に駐車させておいた覆面パトカーに乗り込みながら、 「ほんの少し光明が見えてきたというところですね」 「殺害は刀のようなもので行われ、被害者は刀剣に興味を持っていた」 「こうは考えられませんか。聡子は日頃から刀剣に関わる展覧会巡りをしていて、犯人 に出会い交際をはじめたのではないでしょうか。そして何かがあって犯人は聡子を殺害 した」 「十分考えられるな。美術館なり博物館を捜査対象に入れよう。近くだと四天王寺宝物 館があるな」 「七星剣と丙子椒林剣ですね」 「しかし、どちらも東京国立博物館に寄託されているからなあ」  四天王寺宝物館では、名宝展を春夏秋冬年に四回程度行っており、まれにではあるが 複製の国宝剣二点を展示することがある。  刀剣などの展示会を行う所として、大阪市歴史博物館、大阪城天守閣、高槻市しろあ と歴史館。 「ところで聡子はスマートフォンを持っていたはずです。部屋には見当たらなかったの ですが、遺留品の中にありませんでしたか?」 「うむ、なかったはずだ」 「電話会社に問い合わせて、位置情報から場所を特定できませんか?」 「できるはずだ。ただ、スマホの電池が切れてなくて、電源も入っていればだが」 「重要な情報が入っているかも知れません」 「よし分かった。問い合わせてみよう」  それから数日後、井上課長から連絡が入った。 「スマホの場所が分かったぞ。これから現場に向かうところだ。君も来てくれないか」 「分かりました。行きます」 「よし、覆面を向かわせるから、現場で落ち合おう」 「はい」  数分後に覆面パトカーがやってきた。  運転手は、例の課長の腰巾着ともいうべき若い刑事だった。 「早速、現場に向かいます」  ものの十五分で、とあるアパートの前に到着した。  井上課長は、覆面パトカーに乗車したまま、蘭子の到着を待っていたようだ。  蘭子の到着を見て、井上課長が降車すると、ぞろぞろと他の車からも私服刑事らしき人物も降りる。 「おい、例のものは持ってきたか」 「はい、捜索差押許可状ですね」  と、鞄から一枚の書状を取り出して渡した。 「これだ。これなしでは家宅捜索はできないからね」 「早かったですね」 「ああ、被害者がスマホを持っていたとなれば、裁判所の令状取って、電話番号から 通信記録を調べて、容疑者Aが浮かんだ」 「容疑者Aですか……」 「うむ。殺人犯とまだ特定されていないからな」  警察関係者ではない、一般人の蘭子には実名を打ち明けられないということだ。 「通信記録とスマホの位置情報が特定されて裁判所の許可が下りた」  殺人被害者のスマートフォンが、見知らぬ人物の手にある。  それだけで十分許可状申請の裁判手続きは可能である。 「よし、踏み込むぞ。手筈通りに動け」  部下に命じてから、突入班の数名を連れて、アパートの階段を上る井上課長。  呼び出された管理人と蘭子は階段の下で待機させられた。

     
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