陰陽退魔士・逢坂蘭子/第三章 夢鏡の虚像
其の拾弐  ひとまず、その部屋を退散して、応接間で相談することにする。 「ご覧になられた通りです。やはり悪魔かなんかに魅入られてしまったのですか?」 「いかにも、今夜中にも何とかしないと、娘さんは助からない」 「助からないって……。そんな、娘が……」  相変わらず涙ぐんでいる母親。  その肩をやさしく抱き寄せながら、 「大丈夫だよ、ママ。陰陽道の大家である土御門宮司がいらっしゃっということは、娘を 助ける算段があるということだよ。ですよね?」 「いかにも」 「本当ですか、娘は助かるのですか?」  母親の目が輝いた。 「土御門家の名誉にかけて」  すると気が緩んだのか、顔を手で覆ってワッと泣き出した。  その時、玄関のインターフォンが鳴った。 「私が出よう」  いまだに泣き伏せっている母親に代わって父親が玄関に回った。  玄関で何やら問答が聞こえていたが、戻ってきた父親に着いて、二人の男性が付いてき ていた。 「井上課長さん!」  蘭子が思わず声を出した。  それもそのはずで、心臓抜き取り変死事件で、散々な待遇をしてくれた相手。大阪府警 本部刑事課長の井上警視だったからである。 「これはどうも……。逢坂蘭子さんでしたね。その節はどうも……」  と、蘭子を認識して頭を下げる井上課長だった。 「知り合いかね」  晴代が蘭子に尋ねる。 「例の心臓抜き取り変死事件の担当捜査官よ」 「ああ、あれか……」 「大阪府警刑事課の井上です」  言いながら、晴代に名刺を差し出す。  受け取って、記されている正式な肩書きを読んで尋ねる晴代。 「捜査一課の刑事課長さんが、わざわざお見えとは、何事か起こりましたかな」 「この近くで殺人事件が起こりましてね。目撃者によりますと、こちらの娘さんが関わっ ているらしいとのことで、事情聴取に参った次第でして」 「ほう、殺人事件とな。どのような……」 「目撃者によりますと、こちらの娘さんに若い男が絡んでいたらしいのですが、突然男の 腕が捻じ曲がり、頭が首からもぎ取られるように吹き飛んだというのです。実際の現状も その通りのままでして……。まるで怪力の持ち主かプロレスラーでもないと、ああにも… …」 「とてもか弱い娘さんには不可能だとおっしゃるかな」 「その通りです。頭を抱えていたのですが、蘭子さんがこちらに見えているのをみて、少 し納得できたような気がします」 「納得とは?」 「はたまた悪霊かなんかの仕業ではないかと……」 「科学捜査しか信じない警察の言葉じゃないね」 「まあ、組織的にはその通りなのですが、個人的には蘭子さんに教えられましてね。科学 では解明できないものもあるということをね」 「ふん……」  と、鼻声で答えて、両親の方に向き直る晴代だった。 「それでは、ご両親にお尋ねいたしますが、娘さんが帰宅された当時のことを、詳しく話 していただけますかな」 「よろしいでしょう。お話いたしましょう」  父親が意を決したように語り出した。
     
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