陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪

其の弐 地鎮祭  数日後。  地鎮祭が執り行われることになった。  神主には、最も近くの神社に依頼されることが多い。  取りも直さず、直近となれば阿倍野土御門神社ということになる。  宮司である土御門春代が高齢のため、名代として蘭子が地鎮祭を司ることとなった。  日曜日なので学校は休み、きりりと巫女衣装を着こんでいる。  敷地の中ほどに四隅を囲うようにして青竹を立て、その間を注連縄(しめなわ)で囲 って神域と現世を隔てる結界として祭場とする。  その中央に神籬(ひもろぎ、大榊に御幣・木綿を付けた物で、これに神を呼ぶ)を立 て、酒・水・米・塩・野菜・魚等、山の幸・海の幸などの供え物を供える。 「蘭子ちゃんの巫女姿も堂に入ってるね」  施工主で現場監督とは、蘭子が幼い頃からの顔馴染みであった。 「ありがとうございます」  つつがなく地鎮祭は進められてゆく。 地鎮祭の流れ  係員が静かに監督に近寄って耳打ちしている。 「監督、あの胞衣壺が見当たりません」 「見当たらない?」 「はい。ここに確かに埋めたんですけど……」  と、埋め戻した場所に案内する係員。 「誰かが掘り起こして、持ち去ったというのか?」 「胎盤とかへその緒ですよね。そんなもん何するつもりでしょう」 「中身が何かは知らないのだろうが、梅干し漬けるのに丁度良い大きさだからなあ」 「梅干しですか……でも、埋まっているのがどうして分かったのかと」 「通行人が立ちションしたくなって、角地だから陰になって都合がよいから」 「それで、掘れてしまって壺が顔を出し、持ち去ったと?」 「まあ、あり得ない話ではないが」  二人して首を傾げているのを見た蘭子、 「何かあったのですか?」 「実はですね……」  実情を打ち明ける二人。 「胞衣壺ですか?」  と言われても、実物を見ていないので、何とも言えない蘭子。 「解体される前の家屋を見てましたけど、旧家だし胞衣壺を埋めていたとしても納得で きますが」  陰陽師の蘭子のこと、胞衣壺については良くご存知のようだ。 「長い年月、その家を守り続けてきたというわけですが、何か悪いことが起きなければ 良いのですが」  空を仰ぐと、先行きを現すかのように、真っ黒な厚い雲が覆いはじめ雨が降りそうな 雲行きとなりつつあった。
     
11