続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇
(二)ホテルにて  というわけで、出かけた先はホテルのプールだった。  もちろんホテルといえば篠崎グループと相場が決まっている。水着になって泳げば 気分も爽やか、絵利香の誘いに乗ってやってきた。  ただ以前と違うのは、SPらしき人物の数が増えていることであった。一般人を装 ってはいるが鋭い眼光からすぐにそれと判る。場所が場所だけに、女性SPもいるよ うだ。  そして外出の際には、いつも麗香が付き添うようになった。  研究所火災は、ハワイ沖海戦のことを含めて、梓の命を付けねらう何者かの存在を 明らかにした。 「で、放火の犯人は捕まったの?」 「え?」  絵利香の唐突な質問に驚く梓。 「な、何を言っているのよ」 「だめよ。隠しても判っているんだからね。梓ちゃんの命を狙っている人間がいるこ とぐらい、とっくに気づいているんだから」 「気づいていたの?」 「篠塚の情報網も馬鹿にできないわよ。事の発端は、ハワイに行ったときの飛行機墜 落事故の調査結果よ。自動操縦装置のプログラムが何者かに書き換えられていたこと が判明したのよ。コースが逸れて燃料切れとなるようにね。わたしか梓ちゃんのどち らかを狙った犯行だと断定されたのよ」 「その事、どうして黙っていたの?」 「確信がなかったからよ。しかし今度の研究所火災で、間違いなく梓ちゃんが狙われ ていることがはっきりしたわ」 「そうかあ……やっぱり絵利香ちゃんもそう思っているんだ」 「当たり前よ。駆逐艦に攻撃されたりなんかすれば、誰だって思うわよ」 「そうだよね」 「その話し振りからすると、犯人には逃げられたんだね。あのマッドサイエンティス トじゃないの?」 「可能性は大きいわね。あれから姿が見えないもの」 「今度から人を雇うときはしっかりと身元を確認することね」 「へいへい」 「やあ、いたいた。おまたせえ!」  と背後から聞きなれた声。 「慎二!」  振り返ると、いつものひょうきんな表情をした慎二が、クラスメートと共に水着姿 で現れた。  鶴田公平、相沢愛子らの面々が揃っている。 「遅かったじゃない、みんな」 「仕方ないよ。ホテルのプールなんて利用したことないんだから。入場・利用の仕方 が判らなかったし、どの階にあるのかも判らなかったんだよ」 「フロントに聞けばすぐに判ったはずよ」 「だってよ、ホテルのフロントって、何かかしこまっていてさ。聞きずらいじゃない か」 「そうそう、一般庶民には高級ホテルは近寄りがたいところがあるのよね」 「そんなものなの?」 「お嬢様育ちの二人には判らないかもしれないね」 「へえ、意外ときれいに直ってるじゃない。瀕死の大火傷を負ったというけど、見る 影もないわね」 「まあね。何せ真条寺家が全力を挙げて、世界中の名医を掻き集めて、最新の治療を 施してくれたからね。な! 梓ちゃん」  と言いながら梓の隣に座る慎二。 「そ、そうね……」 「ふーん。そういえば慎二君の快気祝いしてないわね」 「言われてみれば、その通りね」 「この後でやりましょうよ。プレゼントとかは用意してないけど……料理は出すわ よ」 「フランス料理のフルコース?」  慎二が小躍りし、舌なめずりして尋ねた。 「ええ、いいわよ。慎二君がお望みなら」 「よーし。食うぞー!」 「あのねえ。普通、快気祝いって」 「固いこと言いっこなしだよ」 「食い意地の張ってる慎二君らしいわね」 「しかしフルコースを頂けるのは嬉しいけど……できればふさわしい服にドレスアッ プしたいわよね」 「ああ、そうだよね。俺なんかTシャツにGパンだよ。きっと、追い出されちゃう よ」
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村

11