思いはるかな甲子園
■ 女の子として ■  あの日。  転落するも奇跡的に無傷状態の少女。しかし転落のショックでその精神はすでに死 亡しており、魂は抜け出てしまっていた。  そして浩二の方も、コンクリートに後頭部を強打、脳挫傷で脳死状態になった。死 亡した身体から魂が遊離し、たまたまそばに転がっていた魂の抜け殻となっていた少 女の無傷な身体に乗り移った。  考え行き着く結論は、やはりそんなところなのだろう。  梓に生まれ変わったばかりの頃は、浩二の魂と少女の身体が同調しておらず、ほと んど記憶喪失状態であったが、時と共に魂と身体が馴染んでくると、しだいに梓とい う少女の記憶が呼び起こされてきていた。浩二の魂が入り込んだとはいえ、少女の記 憶はそっくり残っているのだ。  梓の身辺の世話をしてくれている母親とも、最初はぎくしゃくとしたものであった が、記憶が戻り共通体験による話題を語り合えるようになると、しっかりとした母娘 関係が築かれていった。  ただ困った事には、梓の記憶が一つずつ呼び起こされるごとに、浩二だった時の記 憶がどんどんと失なわれていくのであった。  梓の脳神経組織は、女として考え女として行動する、完全な女性脳として形成され ている。ゆえに相容れない男性的な意識は、片っ端から切り捨てられているようであ った。  やがては、浩二だった記憶も完全に失せて、すっかり女の子らしい梓になってしま うのだろう。 「そうなるまえにやらなければならないな」  転落事故に至ったあのスケ番達は、目撃者の証言から逮捕・補導され施設送りとな っており、二度と関わることがないだろう。  問題は、浩二がやり残したこと……。 「甲子園か……」  ため息をついて空を仰ぐ梓だった。  急にお腹が刺し込んできた。 「う、うう……。ト、トイレ、いきたくなっちゃった」  広い邸宅なので二階にもトイレと洗面所がちゃんとある。  トイレにはいる。  ネグリジェの裾をまくりあげてショーツを降ろし、両膝を合わせるようにしてゆっ くりと便器に腰を降ろす。ネグリジェの裾は汚さないように膝の上にまとめて両手で 押えている。そして呼吸をととのえて膀胱の開閉口を閉じている括約筋をゆるめると、 いっきに小水が完全排出されるわけである。一般的に女性の場合、小水が完全排出さ れるまで途中で止めることは困難である。これは男性と違って尿道口が短く前立腺と いう弁がないからである。  ちょろちょろ音を立てて小水が流れ出ている。 「だいぶ、おしっこするのにも慣れてきたけれど……尿道口がどこにあるか、こんな 時くらいにしかわからないんだよな。全然めだたないもん」  それもそうだが、実際こうやって腰掛けて小用を足すとき、自分が女の子であるこ とをいやというほど思い知らされることはない。  トイレットペーパーを繰り出して、小水で濡れた股間を拭き取る梓。 「しかし、何度やってもおしっこで濡れちゃうな……みんなそうなのかなあ……」  おちんちんという突起物のある男性と違って、女性の尿道口はほとんど地肌から直 接開いているので、用足しの最中にちろちろと洩れて肌を伝い落ちてしまうのが避け られない。 「まさか母親に聞くわけにいかないし……」  水を流して、やおら立上りショーツをずりあげてネグリジェの裾を元にもどす。
     
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