難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

重症急性膵炎/特定疾患情報(公費負担)

認定基準(pdf)診断・治療指針

1. 重症急性膵炎とは
急性膵炎とは、食物の消化に必要な消化酵素(炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱくを分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなど)と血糖の調節に必要なホルモン(血糖を下げるインスリンと血糖を高くするグルカゴンなど)を分泌する膵臓に急激に炎症が起こり、激烈な腹痛が生じる病気です。急性膵炎の中には、膵臓が腫れるだけで容易に回復する比較的軽症のもの(浮腫性膵炎)から、膵臓や周囲に出血や壊死を起こし(壊死性膵炎)、急激に死に至る重症例まで様々あり、その程度により軽症・中等症・重症に分類されています。このうち、重症急性膵炎では膵臓だけではなく、肺、腎臓、肝臓、消化管などの重要臓器にも障害を起こしたり(多臓器不全)、重篤な感染症を合併し、10%ほどの方が亡くなられる重い病気で、「難病」に指定されています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
急性膵炎の患者さんは年々増加し、2003年1年間に急性膵炎で診療を受けた患者さんが35,300人で、この内約5,100人が重症急性膵炎であったと推定されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか
急性膵炎は男性が女性の約2倍で、男性に多い病気です。幼児から高齢者まであらゆる年齢で発症しますが、男性は50歳台が最も多く、平均年齢は55.0±17.0歳で、女性は70歳台が最も多いのですが、平均年齢は61.4±19.4歳です。重症急性膵炎で亡くなられた方は30歳未満では0%で、40歳以下では6%程度でしたが、70歳以上では14%と加齢と共に死亡される割合が高くなっています。

4. この病気の原因はわかっているのですか
2003年の急性膵炎全国調査では、急性膵炎の原因としては飲酒によるものが37.3%で最も多く、2位が胆石によるもので23.8%、3位が原因を特定できないもの(特発性)で22.6%です。男性ではアルコール性が最も多く50%を占め、女性では特発性が最も多く35%です。

大酒家での急性膵炎発症率は0.6%程度ですので、何らかの素因があると考えられます。飲酒や胆石などに他の因子が加わって、本来消化管でたんぱく質を消化する消化酵素が、膵臓の中で活性化され、膵臓自体を消化し始めると(自己消化)急性膵炎が発症します。

5. この病気は遺伝するのですか
極稀ですが消化酵素の遺伝子異常により発症する急性膵炎があります。たんぱく質を分解する消化酵素の一つであるトリプシンの遺伝子に異常があると、膵臓の中で活性化されたトリプシンがたんぱく分解酵素としての長時間働き、膵臓自体を消化するようになり(自己消化)、急性膵炎が発症します。男性女性の関係なく、この遺伝子異常を持っているヒトが急性膵炎になりますが(常染色体性優性遺伝)、実際には、この遺伝子異常を持っているヒトの80%のみに膵炎が発症しています。他の原因の急性膵炎と異なり、多くは20歳以下で発症します。

さらに、大酒家でも膵炎は0.6%程度にしか発症しませんので、アルコールだけではなく、他に何らかの素因(=体質)があって膵炎が発症すると考えられます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
急性膵炎の最初の症状として最も多いのは、持続的で激しい上腹部痛で93.2%に認めています。しかし、腹痛の程度は個人差が大きく、腹痛の程度と膵炎の重症度とは相関しません。稀ではありますが急性膵炎でも腹痛を訴えない無痛性急性膵炎もあります。急性膵炎の最初の症状として嘔気・嘔吐(22.2%)、背部痛(13.9%)、食思不振(6.0%)、発熱(5.7%)、腹部膨満感(4.2%)なども見られています。

多くの場合、腹痛は上腹部全体に見られますが、心窩部や右上腹部に限局することもありますし、まれに左上腹部に認められることもあります。膵臓は、胃の裏側で背中側にはりつくように存在しますので、急性膵炎の時には上腹部痛に加えて、背中の痛みを生じることも多くあります。痛みが強い時には、上を向いて寝ると腫大した膵臓が脊椎に圧迫されて痛みが強くなりますが、膝を抱くように体を丸くしますと膵臓が脊椎に圧迫されなくなり痛みが楽になります。

何時間もムカムカしたり、吐いたりすることがありますが、吐いても腹痛はよくなりません。さらに、重症急性膵炎では、顔面・皮膚は蒼白となり、冷汗があり、血圧は低下(血圧80 mmHg以下)、心拍数は増加(90回/分以上)してショック状態となりますし、呼吸は浅く・速くなり(20回/分以上)、尿量は減少して腎不全になります。また、意識障害や黒色便(消化管出血)、黄疸が見られることもあります。また、膵炎で破壊された膵臓に細菌感染がおこると発熱があり、進行すると細菌が全身にまわり、重い感染症をおこすことがあります(敗血症)。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 一般的な急性膵炎の治療として、先ず膵臓を安静に保つため食事や水分の摂取は禁じ、血圧と循環状態を正常に保てるように大量の点滴輸液を行い、膵臓内での消化酵素(たんぱく分解酵素)の作用(自己消化など)を阻止するために、たんぱく分解酵素阻害薬を投与します。さらに、感染症を予防するために抗菌薬も投与します。重症急性膵炎では、循環管理や呼吸管理などの集中治療が必要です。

動注治療
膵の壊死が広い範囲に及んだ場合には、静脈から投与した薬剤が膵臓の壊死部に到達しません。動注治療は、膵壊死部に高濃度の蛋白分解酵素阻害薬と抗菌薬が到達するように、壊死部位へ流入する動脈にカテーテルを留置して、蛋白分解酵素阻害薬と抗菌薬を持続的に投与する治療法です。

この治療は、重症急性膵炎の患者さんが適応となり、軽症や中等症急性膵炎の患者さんは対象外になります。急性膵炎の早い時期では膵臓に炎症が起きていますが、3〜5日以降になりますと、膵臓以外の臓器(肝臓、肺、腎臓など)に炎症が広がっていきます。このような状態になってから動注治療を開始してもあまり効果はありませんので、急性膵炎が発症してから3日以内(48時間以内が最も望ましい)の患者さんが対象となります。

しかし、急性膵炎に対する動注療法は現在のところ保険適応ではありません。

持続的血液濾過透析
慢性腎不全の患者さんに行われている血液透析と類似の治療方法です。血液浄化療法は、血液中の有害物質を除去したり、過剰な水分を濾過して腎臓の働きを補助します。

その他の治療
膵臓の壊死部に細菌感染がおこり化膿した場合には、体外から化膿部位へチューブを入れて、膿を体外へ誘導したり(ドレナージ術)、手術をして膵臓の壊死感染部分を除去することもあります。胆石が膵臓の出口を塞いで膵炎が悪化したり、黄疸が進行する場合には内視鏡で、胆石が排出されやすくなるような手術を行います。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
急性膵炎全体では約3%、重症急性膵炎の重症T度で4%、最重症では60%、重症膵炎全体では9%の方が治療の効果がなく亡くなられます。救命できた患者さんはほとんどが6ヶ月以内に退院されます。

2003年に発症した重症急性膵炎患者さんの86.5%は入院前と同じ生活状況に復帰されていますが、軽い仕事に変更した患者さんが3.0%、仕事ができなくなった患者さんが10.5%もおられます。

膵臓が広い範囲で壊死に陥った場合には、膵臓機能が欠落し糖尿病や消化吸収障害などの後遺症が出ることがあります。しかし、これらは適切な治療(食事療法やインスリン投与、消化剤の服用)により対応が可能です。

9. 医療費の補助制度がありますか
厚生労働省の難病対策事業の一つとして、特定疾患治療研究事業、すなわち医療費の公費負担制度があります。重症急性膵炎はその対象疾患の一つです。重症急性膵炎と診断されますと、患者さんまたはその家族の方が「特定疾患医療受給者証交付申請書」と「住民票」、さらに担当医師が記載した「臨床調査個人票」を添えて患者さんが住んでおられる地域を管轄する保健所、あるいは県庁へ申請します(どちらへ申請するかは地域によって異なっている)。認可されますと、原則として6ヶ月間の医療保険の自己負担分を、国と都道府県とで折半して負担します。しかし、申請後の医療費しか公費負担の対象になりませんので急いで手続きを行う必要があります。

重症急性膵炎に対する医療受給者証が交付されて6ヶ月後の更新を申請出来るのは、1) 初回認定時から膵炎治療目的により入院が続いている場合、2) 膵炎治療目的で行った手術などの創処置を続いて行っている場合、3) 急性膵炎後膵液の漏れや、腸瘻が続いている場合や、4) 急性膵炎治療目的で行った手術創部の形成手術や人工肛門閉鎖を行う場合のみです。

図1


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