難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

パーキンソン病関連疾患(パーキンソン病)/診断・治療指針(公費負担)

特定疾患情報認定基準

■概念・定義
黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として(1)安静時振戦、(2)筋強剛(筋固縮)、(3)無動・寡動、(4)姿勢反射障害を特徴とする。このほか(5)同時に二つの動作をする能力の低下、(6)自由にリズムを作る能力の低下を加えると、ほとんどの運動症状を説明することができる。近年では運動症状のみならず、精神症状も注目されている。

■疫学
有病率は本邦では人口10万人あたり100〜150人と推定されている。(欧米では150人〜200人とされる)わが国でも人口構成の高齢化に伴い有病率は増えている。発症年齢は50〜65歳に多いが、高齢になるほど発病率が増加する。40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病と呼ばれる。この中には遺伝子異常が明らかにされた症例も含まれる。

■病因
現段階では不明である。神経細胞変性の機序として酸化的ストレス(特に黒質の鉄の役割とミトコンドリア呼吸酵素の異常)、環境毒(TIQ salsolinol,carboliniumなど)が注目されている。一部は家族性に発症する。

■症状
初発症状は振戦が最も多く、次に動作の拙劣さが続く。中には痛みで発症する症例もあり、五十肩だと思って治療していたが良くならず、そのうち振戦が出現して診断がつくことも稀でない。しかし姿勢反射障害やすくみ足で発症することはない。もしこれらの症状で発症したときには、パーキンソン病以外のパーキンソン症候群を疑う必要がある。

パーキンソン症候群とは、パーキンソン症状を呈するパーキンソン病以外の疾患の総称であって、(1)薬剤性パーキンソニズム、(2)脳血管性パーキンソニズム、(3)進行性核上性麻痺、(4)多系統萎縮症のパーキンソン型、(5)大脳皮質基底核変性症、(6)特発性正常圧水頭症などが含まれる。

パーキンソン病は片側の上肢または下肢から発症し、病気の進行とともに症状は対側にも及ぶ。進行は緩徐である。振戦で発症すると進行は遅く、動作緩慢で発症すると速い傾向がある。症状が片側から対側に広がるのに通常1年から数年を要する。症状の左右差は進行してからも維持されることが多い。

振戦の特徴は頻度が4〜5 Hzの安静時振戦である。動作時には減少・消失するが、一定の姿勢を取りつづけると再び出現する。意識しないときに出現しやすいので、歩行時の手の振戦に注目すると良い。頭頸部に出現するときはうなずくように立てに振る「ヨシヨシ型」になることが多い。

筋強剛(固縮)は頸部や四肢の筋にみられる。他動的に関節を屈伸するときに連続的な抵抗を感じる鉛管様の筋強剛と、規則的な抵抗の変化を感じる歯車様の筋強剛がある。上肢では歯車様、下肢や頸部では鉛管様になることが多い。

動作は全般的に遅く拙劣となるが、椅子からの起立時やベッド上での体位変換時に目立つことが多い。表情は変化に乏しく(仮面様顔貌)、言葉は単調で低くなり、なにげない自然な動作が減少する。歩行は前傾前屈姿勢で、前後にも横方向にも歩幅が狭く、歩行速度は遅くなる。進行例では、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなり、いわゆるすくみ足が見られる。方向転換するときや狭い場所を通過するときに障害が目立つ。

姿勢反射障害は初期には見られないが、ある程度進行するとともに出現し、足がサッと出ないためバランスを崩して倒れることが多くなる。

同時に二つの動作をする能力は初期から低下する。お盆にのせたお茶をこぼさないよう気を配ると足の動きが鈍くなるし、クラッチを踏みながらギアを操作するマニュアル車の運転が難しくなる。

全ての動きには固有のリズムがある。歩行はもちろん、会話にも書字にも一定のリズムがあり、それに合わせることでスムーズな動作が確保される。ところがパーキンソン病では全てのリズムが4〜5 Hzの振戦のリズムと同期するようになる。その結果1分間に240〜300歩で歩こうとしてすくみ足を生じるし、会話には適切な抑揚(リズム)がなくなり単調な話し方となる。

■治療
病勢の進行そのものを止める治療法は現在までのところ開発されていない。全ての治療は対症療法であるので、症状の程度によって適切な薬物療法や手術療法を選択する。

1.薬物療法
現在大きく分けて7グループの治療薬が使われている。それぞれには特徴があり、必要に応じて組み合わせて服薬する。近年、医学の進歩は非常に速い。教科書に書かれた治療法が既に過去の遺物のこともある。しかし膨大な情報の中から、医師個人が全分野の最新情報を正しく選択するのは困難である。そんな時、最新の治療ガイドラインが役に立つ。治療ガイドラインは、専門家がこれまでの臨床研究の成果を吟味し、その時点での標準的な治療法を解説したものである。パーキンソン病に関して、我が国では2002年に日本神経学会から「パーキンソン病治療ガイドライン」(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/neuro/parkinson/parkinson_index.html)が発表された。既に6年経過しており最新とは言えないが、治療薬を選択する上での参考になる。パーキンソン病治療ガイドラインの根底を流れる思想は次のとおりである。(1)最も強力な抗パーキンソン病薬はL-dopaであるが、(2)L-dopaの長期服薬により運動合併症が起こる。(3)早期にはそれを回避する対策を、(4)進行期にはそれを軽減する方法を講じよう。その結果、以下の治療指針が示されている。

パーキンソン病治療の基本薬はL-dopaとドパミンアゴニストである。早期にはどちらも有効であるが、L-dopaによる運動合併症が起こりやすい若年者は、ドパミンアゴニストで治療開始すべきである。一方高齢者(一つの目安として70〜75歳以上)および認知症を合併している患者は、ドパミンアゴニストによって幻覚・妄想が誘発されやすく、運動合併症の発現は若年者ほど多くないのでL-dopaで治療開始して良い。
現在わが国では6種類のドパミンアゴニストが使用可能であるが、それぞれ特徴があるので使い分けが必要である。ペルマックス・カバサールで心臓弁膜症や肺線維症が起きたとの報告があり、服薬するときは心エコー検査等で定期的に心臓の弁をチェックする必要がある。一方ビ・シフロールやレキップでは運転中に突然入眠して事故を起こす「突発的睡眠」が起こることがあるため、服薬中は運転しないよう警告が出されている。

進行期で既にL-dopaによる運動合併症を認めるときは、ジスキネジアの有無によって対応が異なる。ジスキネジアが無ければMAO-B阻害薬を追加する。ジスキネジアのあるときはL-dopaの1回量を減らして、服薬回数を増やす。また、ジスキネジアに対しては塩酸アマンタジンが有効なことがある。パーキンソン病治療ガイドラインの発表後、2007年に末梢性COMT阻害薬が発売されたため、現在では末梢性COMT阻害薬を使用するのが一般的である。ただし末梢性COMT阻害薬に反応しな症例もいるし、激しいジスキネジアを伴う症例では、末梢性COMT阻害薬を使用しても症状のコントロールが難しいことが多い。このような場合は手術療法を検討する。

精神症状、なかでも薬剤性の幻覚・妄想は大きな問題である。ドパミン系を刺激する治療そのものが、幻覚・妄想を誘発する可能性を持っている。幻覚・妄想の治療について、ガイドラインは「最後に加えた薬剤の中止」を勧めているが、これで解決することは少ない。基本は多剤併用を改め、処方を単純にすることである。精神症状を起こしやすい薬から順次中止する。抗コリン剤→アマンタジン→(ドロキシドパ)→MAO-B阻害薬→ドパミンアゴニスト→L-dopaの順に休薬する。それでも精神症状が残る場合には非定型抗精神病薬を用いるが、運動症状が悪化する可能性が高いので、パーキンソン病の専門医以外は手を出さない方がよい。

2.手術療法
手術は定位脳手術によって行われる。定位脳手術とは頭蓋骨に固定したフレームと、脳深部の目評点の位置関係を三次元化して、外から見ることのできない脳深部の目評点に正確に到達する技術である。頭蓋骨に開けた小さな穴から針を刺すだけなので、手術侵襲は非常に軽い。目標となるのは(1)視床、(2)淡蒼球、(3)視床下核の3ヶ所で、(1)と(2)は熱を加えて特定部位を破壊する旧来の方法(凝固術)も深部電気刺激治療(DBS)も可能であるが、(3)はもっぱらDBSだけが行われる。DBSは脳深部に電極を留置し、前胸部に植え込んだ刺激装置で高頻度刺激する治療法である。高頻度刺激すると神経細胞は活動を休み、破壊したのと同様の効果が得られる。我が国では2000年4月から保険適応が認められた。DBSは脳を破壊しないので手術合併症が少ないかわり、異物が体内に残るため感染や断線の危険がある。また、術後にプログラミングあるいはチューニングと呼ばれる刺激条件の調整が必要である。

手術治療は高度な設備と熟練を要するため限られた施設のみで実施されている。手術療法は薬物療法と比べてハイリスク・ハイリターンな治療法である。手術療法を選択するかどうかは、この治療法に習熟した専門医と相談すべきである。

■予後
疾患自体は進行性である。患者によって進行程度は異なるが、一般に発症してから10年程度は独立した日常生活が可能である。それ以上になると家人などの介助が必要となることが多い。生命予後に関しては一般人口の平均余命に近い。高齢者では、脱水、栄養障害、悪性症候群に陥りやすいので注意する。

生命予後は臥床生活となってからの合併症によることが多く、気管支肺炎、尿路感染などの感染症が直接死因になる。


神経変性疾患に関する調査研究班から
パーキンソン病 研究成果(pdf 35KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

この疾患に関する関連リンク
  パーキンソン病治療ガイドライン(日本神経学会)

  神経変性疾患に関する調査研究班ホームページ

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