難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

ヒスチオサイトーシスX
ランゲルハンス細胞組織球症/特定疾患情報

診断・治療指針

1. ヒスチオサイトーシスXとは
 肺好酸球性肉芽腫症、Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)、Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)という聞き慣れない3疾患を合わせて、ヒスチオサイトーシスXという名称で呼んでいます。これらの3疾患は、病変がおこる部位とか、病変の程度とか、病気が発症する年齢に違いはあるのですが、いずれもランゲルハンス細胞と呼ばれている細胞が、病変の存在する組織で増えることが共通するため、これら3疾患をまとめてヒスチオサイトーシスXという名称でまとめています。しかし、これは1950-70年 代の話で、その後の研究により、これらの3疾患は基本的にはかなり異なる病気であることが判明してきたため、現在はヒスチオサイトーシスXという診断ではなく、これら3疾患のいずれかの名前で診断が下されることが多いのが現状です。すなわち、これらの3疾患はそれぞれ異なると考えて下さい。

 この中で、肺好酸球性肉芽腫症、Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)はランゲルハンス細胞が増加する炎症性疾患であり、病変の自然消退がありえます。一方、Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病) はランゲルハンス細胞が広範に浸潤する先天性腫瘍の可能性が高く、死に至る疾患です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 正確に何人ぐらいの患者さんが、この病気のために苦しんでいるのかは不明です。しかし、肺好酸球性肉芽腫症、Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病) Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)の3疾患ともかなりまれな病気であるため、このような病気があると報告されることが多いのですが、それでも日本においては、それぞれ100例以下の報告しかありません。

 肺好酸球性肉芽腫症に関して、厚生省の呼吸器系疾患調査研究班の呼吸不全調査研究班というところで、平成8年度の患者さんの数を全国調査しました。その結果、おそらく日本全体で200人以下と考えられました。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 肺好酸球性肉芽腫症は、一般的には若い男性に多く、20歳から50歳までの人に多く見られますが、最高年齢では70歳での発症例も報告されています。

 Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)は発症時期の多くは小児期(10歳以下)といわれていますが、少数(20歳以上の成人発症は12%弱)ながら全年齢層(50歳以上まで)に認められています。男 女比は2 : 1と、男性に多く認められています。

 Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)は1歳未満で発症することがほとんどで、小児期まで生存しうる患者さんは、まれであるといわれています。男女比はほぼ同数といわれています。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 3疾患のいずれにおいても、正確な病因は解明されていません。

 肺好酸球性肉芽腫症の病因は現在までのところ明らかではありません。考えられているのは、何らかの未知の原因に対して、肺にランゲルハンス細胞が増加して、肉芽腫が形成されるというかたちの、一種の免疫反応です。 ランゲルハンス細胞は、マクロファージ由来と考えられています。

 肺好酸球性肉芽腫症では90%以上の患者さんが喫煙者であり、発症との因果関係が注目されています。喫煙が刺激となり、肺での肉芽腫形成性免疫反応につながるという考え方も提唱されています。

 Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)も、肺好酸球性肉芽腫症と同様に、ランゲルハンス細胞が慢性進行性に、全身で増加する疾患です。しかし、肺好酸球性肉芽腫症と異なり、大多数は非喫煙者で、 病因は肺好酸球性肉芽腫症とは異なるものと思われます。

 Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)は、乳幼児にみられるランゲルハンス細胞の腫瘍性増殖による先天性疾患であり、胎生期に芽生えた腫瘍細胞が、生後増殖を始め、全身に広がる疾患と考えられています。

5. この病気は遺伝するのですか
 肺好酸球性肉芽腫症に関して、厚生省の呼吸器系疾患調査研究班の呼吸不全調査研究班というところで、平成8年度の患者さんの実態を全国調査しました。その結果、1例(1%)のみですが、兄弟発生の患者さんが認められました。この結果から、遺伝する可能性も全くは否定はできないと思われます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 肺好酸球性肉芽腫症のおよそ3分の1の患者さんでは、検診時の胸部X線にて異常陰影が指摘され、初めて病気が発見されます。すなわち、自覚症状が全く認められないということです。自覚症状が認められる場合、そのうち主なも のは、息苦しさと空咳(痰がでない咳)です。また、およそ3分の1の患者さんに、全身倦怠感・微熱・体重減少などの非特異的な(肺好酸球性肉芽腫症のみでなく、他の疾患でも認められる)症状が認められます。息苦しさは、肺の病変が進んだ症例で認められます。自然気胸(肺の表面に穴があき、空気がもれて、肺が縮んでしまう病気)を合併すると、胸痛・息苦しさが認められます。

 Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)は、頭蓋骨の欠損・眼球の突出・尿崩症(薄い尿が大量に出る)が3大症状です。しかし、これらの症状が認められるのは、全体の30%程度です。骨の欠損は、骨での肉芽腫形成によるものです。頭蓋骨に欠損がおこることがほとんど (90%以上)ですが、大腿骨、骨盤にもおこります。脳内の下垂体周辺に病変(肉芽腫)が浸潤すると、尿崩症になります。皮膚に病変がおよぶと、黄色腫(黄色く皮膚が盛り上がる)が生じます。肺に病変がおよぶと、咳・痰・息苦しさなどの呼吸器症状が認められることもあります。

 Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)は、全身の臓器がほとんど侵される病気で、傷害された臓器の症状が出現します。肝臓や脾臓が腫れることによる腹部の膨満、全身のリンパ節腫脹、息切れ、皮膚湿疹、歯の脱落、発熱、全身衰弱などの種々の症状が出現して、栄養不良、感染などにより乳幼児期までに死亡することがほとんどです。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 肺好酸球性肉芽腫症は、そのまま無治療の場合に、自然によくなる人もいれ ば、肺の機能が悪くなり死亡してしまう人もいるため、一定の治療方針で対処するのは困難です。しかし、この病気の90%以上の患者さんが喫煙者であるこ とより、基本的な治療として、まず禁煙をすることが大切です。禁煙することにより、自然によくなる、ないしは病気が進まないということも期待できます。

 病気が発見された時に自覚症状が認められない場合は、数カ月の経過観察が必要と思われます。その後、症状が出現してきた場合には、医師と相談の上、副腎皮質ホルモン治療を考慮する必要があります。また、気胸で発症した患者さんでは、難治性・再発性の気胸であることが多いため、内科的保存療法よりも手術の方が良いという意見もあります。人によりかなり症状も病態も異なるため、いずれにしろ、担当医との相談が必要です。

 Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)は、基本的には慢性進行性の病気であり、副腎皮質ホルモン治療が肉芽腫の改善に有効と考えられていますので、担当医と相談の上、治療する必要があると思われ ます。副腎皮質ホルモンに対する反応が悪い場合には、免疫抑制剤による治療適応があるかもしれません。

 Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)は反応性の炎症ではなく、腫瘍の性格に近いものですので、現時点では、特に有効な治療法は判っていません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 肺好酸球性肉芽腫症の場合は、全体としてみると、ほとんど変化がない(病気は完全には治らないものの、悪くはならない)ことが多いことがわかっています。すなわち、自然に治癒してしまう場合もあります。しかし、中には病気がどんどん進行して、肺が壊され、呼吸がうまくできなくなって死亡する場合もあります。また、この病気以外に、たまたま悪性腫瘍が同時に見つかるよう であれば、それが予後を左右します。

 Hand-Schuller-Christian病(ハンド・シュラー・クリシチャン病)は、基本的には慢性進行性の病気です。早期の死亡は、急激に経過する場合(症状が急激に悪化する)に認められ、発症後3年以内が多いといわれています。成人に発症した場合には、長い経過をもつ例が多いといわれています。

 Letterer-Siwe病(レテラー・シーベ病)は小児の病気であり、病気は進行性で、症状の項目で述べたような症状が持続して、数年以内に死亡する場合が多いようです。


情報提供者
研究班名 呼吸器系疾患調査研究班(呼吸不全)
情報見直し日 平成20年4月25日

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