難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

急速進行性糸球体腎炎/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
 急速進行性糸球体腎炎とはWHOにより、『急性あるいは潜在性に発症する肉眼的血尿、蛋白尿、貧血、急速に進行する腎不全症候群』と定義されている。病理学的には多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める壊死性半月体形成性糸球体腎炎(necrotizing crescentic glomerulonephritis)が典型像である。しかし、半月体形成性腎炎以外にも急速進行性糸球体腎炎の臨床経過をたどるものがあり、前述の定義を満たす、腎炎様の尿所見を伴い、急速な腎機能の悪化により放置すれば末期腎不全まで進行するものは臨床的に急速進行性糸球体腎炎症候群として取り扱われる。

■疫学
 厚生省進行性腎障害調査研究班「難治性ネフローゼ・急速進行性糸球体腎炎」分科会の調査では、全国の主要医療機関235診療科の腎生検で得られた、糸球体の30%以上に半月体形成をともなう腎炎は平成2年度に比べ平成6年度は1.6倍に増加していた。

 平成元年以降の日本腎臓学会東部会および西部会における全症例報告に対する急速進行性糸球体腎炎症例(抄録内に急速進行性糸球体腎炎、半月体形成性腎炎と明記されているもの)の比率および抗好中球細胞質抗体(anti neutrophil cytoplasmic antibody、以下ANCA)陽性症例数、抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane、以下GBM)抗体陽性症例数をみると、6,120例の症例報告中、急速進行性糸球体腎炎症例は453例で、1993年度は若干減少しているものの、1989年は4%であったものが1995年以降は10%以上を占めている。この間、抗GBM抗体陽性の急速進行性糸球体腎炎は69例報告され、ANCA関連急速進行性糸球体腎炎は212例の報告をみている。抗GBM抗体型は比較的発表症例数の変動は少ないものの、ANCA関連急速進行性糸球体腎炎は1993年以降急激に増加している。また厚生省「特定疾患に関する疫学研究調査研究班」の調査による1998年度1年間の我が国の急速進行性糸球体腎炎による病院受診患者数は1,500人(1,300-1,600人)と推計されている。年齢分布はpauci-immune型では平均値61.3±15.7歳(中央値65歳、範囲6〜88歳)、顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis、以下MPA)では65.6±11.1歳(中央値68歳、範囲14〜87歳)と高齢者に多いが、抗GBM抗体型では51.4±16.8歳(中央値54歳、範囲10〜79歳)、Goodpasture症候群では49.3±14.3歳(中央値49歳、範囲23〜71歳)であり、疾患によっては比較的若年者にも急速進行性糸球体腎炎患者がおり、注意を要する。性別は全体では男性:女性は1:1.1でほぼ同率であり、pauci-immune型とMPAとも男女比は1:1.24であるが、全身性エリテマトーデスなど男女差の認められるものもある。

■病因
 我が国の急速進行性糸球体腎炎例で最も多いpauci-immune型半月体形成性腎炎やMPAでは血清中にANCAがしばしば陽性となることが明らかとなっている。ANCAはエタノール固定したヒト好中球の蛍光抗体法間接法によるパターンからcytoplasmic ANCA (以下c-ANCA)とperinuclear ANCA (以下p-ANCA)に分類される。c-ANCAの標的抗原はproteinase-3 (以下PR3)であるのに対し、p-ANCAの主な標的抗原はmyeloperoxydase (以下MPO)であり、PR3-ANCAはWegener肉芽腫症、MPO-ANCAはMPAやpauci-immune型半月体形成性腎炎でしばしば陽性となる。これらANCA関連の急速進行性糸球体腎炎では先行感染や何らかの刺激により、MPOやPR3が好中球や単球の表面に発現され、ANCAと反応して、好中球・単球の脱顆粒や活性酸素の放出を来たし、血管内皮細胞を傷害し、糸球体基底膜の破綻から半月体形成をきたすと考えられている。

■症状
 肉眼的血尿を高頻度に伴い、病初期には、しばしば無尿あるいは乏尿を呈する。 浮腫と高血圧を伴うことが多い。全身症状として、発熱、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などが出現する。経過中に喀血がみられることもある。

■検査

(1)検尿:蛋白尿は高度であり、しばしばネフローゼ症候群を呈する。
 顕微鏡的血尿は必発であり、沈渣に多数の赤血球、白血球、及び赤血球円柱が認められる。
(2)血液生化学:血中尿素窒素及び血清クレアチニン値は進行性に上昇する。
(3)血清学:抗基底膜抗体、p‐ANCA、あるいはc‐ANCAが検出されることがある。
(4)腹部X線と腎超音波:腎は正常の大きさあるいは腫大を示す。
(5)胸部X線:肺出血による異常陰影が認められることがある。

■治療
 本疾患の治療方法としては、副腎皮質ホルモン製剤と免疫抑制薬、抗血小板薬、抗凝固薬による多剤併用療法が基本となる。症例に応じ血漿交換療法等が行われることがある。

■予後
 急速進行性糸球体腎炎は、約32.6%の患者が経過中に腎死に至り維持透析療法を施行、さらに維持透析例も含め26.9%の患者が個体死に陥る。死亡原因としては50.0%の患者が感染症によるもので、肺感染症を含む肺合併症による死亡が59.4%にものぼる。このように肺、呼吸器系の合併症による死亡例が多いことが特筆される。特に症例数の多いMPO-ANCA型急速進行性糸球体腎炎は6ヶ月生存率74.2%、1年生存率70.0%と極めて予後不良であった。MPO-ANCA型急速進行性糸球体腎炎の腎予後は6ヶ月腎生存率69.9%であるのに対し、抗GBM抗体型急速進行性糸球体腎炎の腎生存率は6ヶ月時点で25.9%であった。


進行性腎障害に関する調査研究班から

 研究成果(pdf 44KB)
 この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者
研究班名 腎・泌尿器系疾患調査研究班(進行性腎障害)
情報見直し日 平成20年4月24日

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