難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

ADH分泌異常症/特定疾患情報

診断・治療指針

1. ADH分泌異常症とは
 ADH(抗利尿ホルモン)の働きは、腎臓から体内に水を取り込み水を保持することで、体にとって必須のたいへん重要なホルモンです。このホルモンの分泌が異常になる代表的な病気としては、1.ADHの不足によって発生する中枢性尿崩症、2.ADHの過分泌により発生するSIADH(ADH分泌過剰症)という全く異なる2種類の疾患があります。ADHは脳の中の視床下部という場所で合成され、下垂体の後葉から血中に分泌されるホルモンで、腎臓で作用を発揮します。ADHが不足する中枢性尿崩症では、尿が近くなり、大量に色のない尿(多尿)が出るようになり、のどの渇き(口渇)や口の中のねばねば感、水のがぶのみ(多飲)が発生し、患者さん自身が変調に気がつくことが多い病気です。SIADHでは患者さんが感じる特徴的な症状はまずありません。このため、病院などの検査時に水分の過剰貯留により発生した低ナトリウム血症として発見されることがほとんどです。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 1999年の厚生労働省の全国調査では、中枢性尿崩症で治療を受けている患者数の推計結果は4,700人であり、SIADHの患者数推計は1,700人でした。中枢性尿崩症の患者数はともかく、SIADHは診断がむずかしいこともあり、米国などの報告から見ても実数としてはこの10倍前後が1年間に発生している可能性があります。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 中枢性尿崩症は1999年の調査では40才未満の患者さんが約3/4と幼児から若年層が多数を占め、男女比は1:1.5でした。SIADHについて詳細な調査結果はありませんが、年齢層は中枢性尿崩症に比べ高く男女差はないことが一般的です。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 中枢性尿崩症はその原因により、1)脳腫瘍、外傷等何らかの視床下部・下垂体を傷害する原因があり、二次的に発生する続発性中枢性尿崩症(約60%)、2)種々の検査で脳腫瘍等の原因が発見できない特発性尿崩症(約40%)、3)遺伝性に発症する家族性尿崩症(約1%)、の3群に分かれます。 SIADHの病因は、1)肺癌などの癌がADHを勝手に産生する場合、2)脳の病気(中枢神経疾患)あるいは肺の疾患がもとになり、ADHの分泌を調節する機能が異常になり、ADHの分泌を止められなくなる状態、などに分かれます。

5. この病気は遺伝するのですか
 中枢性尿崩症の中で約1%に見られる家族性に発生するものを除けば、他の原因による中枢性尿崩症やSIADHでは遺伝することはないと考えていいでしょう。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 中枢性尿崩症では多尿、口喝、多飲が主な症状で、その他に、皮膚や口の中の乾燥(ねばねば感)、微熱、食欲不振などが起こることもあります。典型的な場合には、1日の尿量は10〜15リットルにもなります。多尿や口渇は糖尿病の症状としても出てくることがあるため、糖尿病を心配されて医療機関を受診される場合もありますが、尿の糖や浸透圧を検査することで簡単に区別できます。中枢性尿崩症では睡眠中も排尿が1−2時間毎にあり、そのたびに水を飲むため睡眠障害ともなります。この病気では脱水経傾向になりやすく、夏季でも汗が出ないとか舌がからからになることがあります。小児では夜尿症として発症することもあります。
 続発性中枢性尿崩症では脳腫瘍などの原因となる疾患があるため、腫瘍の症状(頭痛、ものが見にくくなるなど)が同時に出ることがあります。
 SIADHは通常定まった症状がないため、患者さんにとっても医師にとっても気がつきにくい病気です。急激に起これば脳浮腫により、けいれんなどの症状が出ることもありますが、ほとんどの場合は血液の検査で血中の電解質であるナトリウム値が低いことからこの疾患を疑うことになります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 中枢性尿崩症の治療は、不足しているADHに代わって、合成して作られたADH製剤であるDDAVP(デスモプレシン)の投与により尿量を減少させることができます。デスモプレシンは口から飲むと通常は酵素で壊されて効かなくなるため、鼻の粘膜に投与します。デスモプレシンはそのため、点鼻液あるいは点鼻スプレーというやや不便な形で使用します。世界各国ではデスモプレシンの量を工夫し、口から飲んでも効くような錠剤が広く使用されていますが、日本では残念ながら認可されておらず患者さんのQOLの向上目的で今後早い時期に日本へ導入されるよう学会等で努力しています。
 SIADHの治療の原則は、体に過剰に貯まった水分を飲水制限(800ml/日程度)で減少させることが基本です。けいれんなどの神経症状がある場合などでは濃いめの食塩水(高張食塩水)の投与により血中のナトリウム値を上昇させること(補正)がありますが、適正な補正の速度を決めることは容易ではなく、時に橋中心髄鞘崩壊というような脳の合併症を引き起こすこともあるため、慎重な処置が必要です。わが国では2006年秋にフィズリンという名前のSIADHに対する特異的治療薬が使用できるようになりましたが、内分泌専門医などその使用に習熟した医師により治療する必要があります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 中枢性尿崩症は生涯治癒しないことがほとんどですが、デスモプレシンの使用により尿量をうまく調節できれば寿命に影響することはなく、生活も普通通りにできます。ただし、中枢性尿崩症の60%は脳腫瘍などの原因疾患をもつため、これら原因疾患の経過によって大きく左右されます。
 SIADHも多くの場合何らかの原因疾患を持っているので、その経過に影響されることがほとんどです。


情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(間脳下垂体機能障害)
情報見直し日 平成20年4月27日

メニューに戻る