機動戦艦ミネルバ/第五章
 ターラント基地攻略戦(4)
「リスキー開発区のモビルスーツ研究所及び生産工場の破壊とモビルスーツの奪取が 我々に与えられた任務です」 「リスキー開発区の攻略ですか」 「それはまた難儀な指令ですね」 「モビルスーツ同士の激突になりますよ」 「どれほどのモビルスーツが出てくるか判りません」  各艦長はそれぞれの意見を述べた。 「その心配はないでしょう。どんなに機体があろうとも、動かすにはパイロットが必要 ですが、戦闘経験のほとんどないシロートだそうです」 「かも知れませんね。せいぜい動かせるだけのレベルでしかないでしょう。戦闘レベル は実戦で経験するしかありませんから」 「モビルスーツの奪取の任務は、ナイジェル中尉とサブリナ中尉にやってもらいます」  頷くナイジェルとサブリナ。 「今回の任務上、研究所への攻撃は極力避け、出てきたモビルスーツと戦闘機を撃ち落 し、岩壁の砲台を叩いて無防備にした後に、殴り込みをかけます」 「まもなくリスキー開発区です」  オペレーターが報告する。  フランソワは一呼吸おいてから、静香に下令した。 「全艦、戦闘配備!」  各艦長達は、それぞれの艦に急行すべく乗り込んできた艀に向かった。  来た時にも感じたが、ミネルバの艦内装備と施設には圧倒されるばかりであった。 「こんな機動戦艦を操艦してみたいものだな」  全員一致の思いだったに違いない。  リスキー開発区は砂漠にそそり立つ巨大な岩盤の中腹に建設されていた。かつては良 質のレアメタルが採掘されていたが、ほぼ掘り尽くされて廃棄された。  その廃坑後にモビルスーツ研究・生産工場として再開発されたのである。 「戦闘配備完了しました」 「よろしい。このまま前進して敵の出てくるのを待つ」  完了したと言っても、今回の作戦ではミネルバの艤装が活躍する場はほとんどないだ ろう。原子レーザー砲も速射砲もお役御免のようである。  せいぜい敵が身近に迫った時のためのCIWS(近接防御武器システム)くらいであ る。 「敵のモビルスーツ隊が出てきました」  高速移動用のジェット・エアカーに乗ってモビルスーツが向かってくる。 「こちらもモビルスーツを出して」 「モビルスーツを出撃させます」  フランソワは手元にある端末を操作して、サブリナ中尉とナイジェル中尉を呼び出し た。 「その新型は性能諸元がまったくの未知数です。十分気をつけて戦ってください」 「判りました。十分気をつけます」 「それでは艦長、行って参ります」  勇躍大空へ飛び出してゆく新型モビルスーツ。  超伝導磁器浮上システムを採用した完全飛翔型ゆえに、エアカーを使用することなく 縦横無尽に飛び回る。  完全飛翔型とはいっても、磁気浮上システム自体は浮き上がるしかできないので、ジ ェットエンジンの飛行装置が取り付けられている。それでもエアカーに乗らなければな らない旧式よりははるかに機動性は高い。 「この分では五分ほどで決着が着くでしょう」  副長のベンソン中尉が進言した。 「そうね」  ベンソン中尉の言う通りにほどなく決着がついた。 「モビルスーツの回収部隊を突入させてください」  フランソワが説明した通りに、敵には熟練したパイロットがいなかった。  そのほとんどが、機体を動かせるだけのレベルだけしかない。研究所という環境を考 えれば当然のことなのだろうが、ミネルバが目標にしているという情報が入っていれば、 それなりの対応ができただろう。  情報戦を仕切るレイチェル・ウィンザー大佐の力量というところだろう。  研究所には研究員や警備兵が、まだ立て篭もっているはずである。  モビルスーツの回収の援護なら、旧式機体でも十分であろう。 「サブリナ中尉とナイジェル中尉は戻ってきて、上空の警戒にあたってください」 「了解。戻ります」  いつどこから来襲があるかも知れないから、それに備えていなければならない。  研究所を完全制圧するには、まだ少し時間がかかる。  サブリナを呼び戻して、警戒防衛に当たらせるのは当然であろう。  ミネルバの上甲板に着艦して上空警戒に入るサブリナ。 「これより上空警戒に入ります」  新型が上空警戒に入ると同時に、回収部隊が研究所に突入してゆく。  警備兵とて黙ってモビルスーツが奪取されるのを指を加えて見ているわけがない。  激しい銃撃戦がはじまる。  研究員も銃を取って参加する。  研究所内にはまだ数多くのモビルスーツがあり、研究員が乗り込んで侵入者を迎撃し ようとする。  しかし所詮はただの研究員。それらを蹴散らし、完成したばかりのモビルスーツを回 収していく。  輸送トラックに積んで運び出したり、パイロットが乗り込んで自ら操縦して移動させ てゆく。  所内にずらりと並んだモビルスーツ。各艦から選りすぐりのパイロット達には、一目 で旧式と新型の区別がつく。旧式には目もくれずに、より新しいタイプの機体を選んで 乗り込んでいく。  もっとも新型と言っても、旧式に比べればということで、サブリナ達が乗っている新 型とは性能がまるで違う。  やがて研究所は制圧され、モビルスーツの搬送も完了した。  搬送しきれないモビルスーツを残しておくわけにはいかないので、研究所・生産工場 もろとも爆破するに限る。  要所要所に爆弾がセットされてゆく。 「よおし、作戦終了。撤退するぞ」  研究所の搬送口から次々と撤退してくる回収部隊。  ほどなくして、仕掛けた爆弾が炸裂する。轟音とともに研究所のある岩壁もろとも崩 れ去った。 「回収、終了!」 「基地へ連絡。任務完了、次なる指令を待つ」  通信士が暗号文に直して、メビウス部隊の基地へ向けて打電する。  ほどなくして返信が戻ってくる。 『本部了解。次なる作戦は考慮中にて、それまで自由行動を認める』 「自由行動を認めるだそうですよ」  嬉しそうに副官のイルミナ少尉が言った。  自由行動イコール休暇とでも考えたのだろう。 「良い機会です。搾取したモビルスーツを利用して、戦闘訓練を行いましょう。サブリ ナ中尉を呼んでください」  それを聞いて怪訝そうな表情を見せるイルミナだった。 「何か不服でも?」  すかさずフランソワが尋ねる。 「いえ、訓練は大切ですよね」 「そう、一人でも多くの正規パイロットを育てることが、私達の任務なのです」