(四)
「それで、真菜美はいつ退院できるのでしょうか?」
「身体の方はすっかり回復していますが、精神的療養がまだ必要です。強姦されて妊娠したというのがトラウマになっていて、自閉症になっていますから……。そうですね、一ヶ月くらいは必要ですね」
「一ヶ月ですね」
「はい。できればその間にも見舞いにきて、母娘のスキンシップをお願いしたいですね。お嬢さまの心を癒せるのは、やはり母親以外にはありませんから」
「わかりました。自信はありませんが、やってみます」
患者や看護婦・医師などが往来する廊下。
看護婦を伴って母親を、真菜美の病室へ向かう。
桜井真菜美というネームプレートが下がっている病室の前にたどり着く。
「ここがお嬢さんの部屋です」
「真菜美……」
「一応、私が先に入って、お嬢さんの様子を確認してから、お母さんに入っていただきます」
「わかりました」
真菜美の病室をノックする。
「真菜美ちゃん入るよ」
「ど、どうぞ」
ちょっとうわずった声が聞こえてくる。
ん……。どうかしたかな?
ともかくもドアを開けて入る。
「どうだい、気分は?」
「うん。とってもいい気分よ」
「そうかい……。実は、今日はご両親を連れて来たんだ」
「両親?」
「そうだ。入ってもらってもいいだろ?」
「そうだね……いいよ」
断っても仕方がないことだし、いつかは会わなければいけない。
「わかった」
先生は、扉のそばに立っている看護婦に合図をして、両親に入ってもらう。
扉が開けられて、通路に立ち尽くす両親の姿が目に入る。
ゆっくりと歩いて中へ入って来た。
「お母さん……?」
「真菜美……」
「おまえ、一体今までどこに……」
といいかけ言葉を詰まらせ、いきなり抱きしめられた。
「もういいよ。もういいんだ……」
何が、もういいんだか……わからないけど。たぶん親不孝していて、家出したりしていたらしいこと、それらを許してくれるということだろう。
ああ……。両親が目の前にいるというのに、まったく記憶がないってのも困ったものだね。
「真菜美は、私達を覚えていないのか?」
パパが尋ねた。
あたしはこっくりと頷く。本当に覚えていないんだから、嘘言ってもしようがないよね。
「本当に記憶がないの?」
「うん。嘘言わないよ」
「そうなの……。でもいいのよ。これからまた親子で一緒に暮らして、新しい生活をはじめましょう」
「その通りだ。記憶があろうとなかろうと、私達の娘には違いないのだから。ただね、先生がおっしゃるのには、真菜美にはしばらくこのまま入院したまま治療を続けて、私達が面会にきてあげるということになったんだ」
「ごめんなさいね。寂しいだろうけど、しばらく我慢してね」
別に寂しくないけど……。
そっかあ……。すぐに退院かと思ったけど、もうしばらくここに居られるわけね。よかったわ。まずは一安心。
というわけで、取り敢えず今日のところは両親は帰っていった。
何度も振り返りながらあたしを見つめていたママの姿が印象的だった。
あたしのこと本当に心配している感情がひしひしと伝わってくる。
うーん……。これってやっぱり親不孝しているってことかな。
ほんの少し、ママのところに帰ってあげてもいいかなと思った。