特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(四十四)投身自殺  朗報が持ち込まれた。 「響子の居場所が判ったぞ」 「ほんとう?」 「ああ。新庄町の富士マンションに閉じ込められている」 「早速、助けにいきましょう」 「当然だ、すぐに行くぞ。暴力団対策課と麻薬課の連中を張り込ませている」 「まだ、踏み込んでいないの?」 「捜査令状がまだ届いていないんだ。届き次第踏み込む」 「ああ、そんなことしているうちに……」 「しかし、法は法だ。警察官が法を破ったりはできん」  とにもかくにも、麻薬取締部の同僚と共にそのマンションへ急行することにする。 「課長! いいですよね?」 「無論だ!」  すでに日付が変わっていた。  富士マンションの響子さんが囚われていると思われる部屋が見える隠れた場所で、 車の中に潜むようにして張り込んでいるわたし達だった。  その部屋のカーテンは締め切られていて、明かりは点いてはいない。  今回の強制捜査に携わるのは、警察から麻薬銃器課の三人と暴力団対策課の四人、 麻薬取締部からわたしを含めて四人、そして一般の制服警官が三十二人(主に交通 課)である。  そして取り仕切るのは麻薬銃器課巡査部長の敬である。  三つの課を取りまとめ、合同捜査チームを結成させた彼である。  生活安全局の副局長を説き伏せてしまう、その素早い行動力と説得力はさすがだ。  さすがにわたしが惚れるだけのことはある。  だが、肝心の捜査令状がまだ届いていなかった。  令状がなければ、たとえ囚われていると判っていても踏み込むことはできない。  しかも響子さんが人質状態では踏み込みのも簡単ではない。  相手は暴力団だ。拳銃くらい所持しているはずである。  決行は慎重かつ迅速に行われなければならない。  やがて一人の捜査員が令状を持って現れた。 「令状が届きました!」 「よし! 踏み込むぞ。ただし監禁されている女性がいる。行動は迅速に、発言は慎 重にだ」 「了解!」  敬がてきぱきと強制捜査の手筈を組み立てていた。  家宅捜査令状を持って部屋に入る班(麻薬取締官が担当)、逃走路を封鎖する班、 交通規制を行う班、銃撃戦になった時の住民の避難誘導班などである。 「真樹は、響子さんを保護する担当だ」  響子さんは一応女性である。(少なくとも外見上は……)  女性であるわたしに保護担当が回ってくるのは当然である。 「巡査部長、あれを!」  捜査員の一人がマンションの部屋を指差して叫んだ。  あ!  誰かが窓から身を乗り出している!  しかも裸の女性だ。 「響子さんの部屋だ!」  まさか!  次の瞬間だった。  ふわりと身を投げ出したその身体が宙に舞った。  まっさかさまに落下してゆく。  きゃあー!  わたしは思わず悲鳴を上げてしまった。  捜査員が駆け出してゆく。  ドシン!  鈍い大きな音があたり一面に響き渡った。  バンの天井にめり込むように身体が沈み込んでいた。  そうなのだ。  丁度真下の路上にバンが違法駐車していたのだ。 「救急車を呼べ!」  誰かが叫ぶ。  責任者である敬が動く。 「ここはまかせて、麻薬取締官は部屋の方に急行してください。身投げを知って逃げ 出されます」 「判った!」  麻薬取締官達はマンションへと突入していく。  捜査員はたくさんいるのだ。  全員がその女性に関わってはいられない。 「交通課はただちに交通規制だ。一帯を通行止めにしろ!」 「了解!」  交通課の警察官が無線連絡によって、道路封鎖のために配置に付いていた要員に指 示を出す。  付近一帯を通行止めにして現場に車両を進入させないためである。
     
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