特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(四十二)正義とは  勤務時間を終えて、敬の車で帰宅するわたし。  助手席に座り運転席の敬を見ると、何か考えている風に黙々と車を走らせていた。  課長に対してはあんなことを言ってはみたものの、敬と二人きりになって冷静にな ってみると、やはり済まないという気持ちになるわたしだった。  いくら職務に責任感ある行為とはいえ、将来を誓い合った恋人としては、やるせな い気持ちになっていることだろう。敬も正義感の強い性格をしているから、同じ警察 官としてそれを拒むことが出来ないでいるのだ。 「ごめんなさい……」 「何を謝っているのだ」 「だって……」 「身体を張って囮捜査に出ようと言う君の考え方は賛成できないな。もちろん恋人と してそんなことはさせたくないというのは正直な気持ちだ。万が一失敗して組織に捕 らえられれば、麻薬覚醒剤を打たれ売春婦に仕立て上げられるのは間違いない。最悪 には我々に対する見せしめとして、陵辱された挙句にどこかの路上で裸状態の死体と なって発見されることもありうる。そうなって欲しくない」  わたしには反論する言葉がない。  敬が強く反対したら、それに従うつもりだった。 「しかしこのまま放っておけば、泣いて苦しむ女性達が今後も増え続けるのも事実だ。 同じ警察官として、君の正義感溢れる行動態度は理解できる。磯部健児を挙げるには、 その組織を壊滅しなければならないし、多方面からアプローチした方が、より確実に 包囲網を狭めることができるということも判っている。……君が後悔しないと確信で きるなら、思ったとおりにやればいいよ。俺は、君の意思を尊重したいし、たとえど んなことになろうとも、将来を誓い合った同士として見守ってあげたい」  考え抜いた末のことであろうと思う。  警察官としての正義と、恋人としての優しさ思いやり。  両天秤に掛けてもなお、自分達の事でなく、より多くの被害者を出さないために最 善を尽くすことの重大さを踏まえての意見だろう。 「あ、ありがとう……」  敬の言葉で、わたしの意志が固まった。 「とにかくじっくりと考えてから実行すべきことだよ」 「そうね」
     
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