特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(三十八)取り引き  わたしは局長室に直通のダイヤル番号に電話を掛ける。 「生活安全局局長室です」  懐かしい声だった。  まさか本人が直接出るとは思わなかった。普通は秘書が出て取り次ぐものだが、お そらく所用で部屋を出ているのであろう。 「局長さんですか?」 「その通りです」  早速本題に入ることにする。 「実は覚醒剤を手に入れたんですけど、局長さんが仲買い人を紹介してくれるという 噂を耳にしまして」 「どういうことだ?」  局長の声色が変わった。 「隠してもだめですよ。警察が押収した麻薬を横流ししてること知ってるんですよ」 「それをどこで聞いた?」 「以前あなたのお友達に女装趣味の人がいたでしょう? その人から聞いたのよ」 「まさか……」 「うふふ。逆探知してもだめですよ。あなたの地位が危なくなるだけです。で、どう しますか?」 「どうするとは?」 「覚醒剤ですよ。とぼけないでくださいね。取り引きしませんか?」  しばらく無言状態が続いた。  対策を考えているのだろう。 「い、いいだろう。取り引きしよう。どれくらいの量を持っているのだ」 「そうですねえ……5700グラム。末端価格で4億円くらいになるでしょうか」  覚醒剤の相場は、密売グループが大量検挙されたなどの市場情勢によって変動する が、平成24年以降1グラム7万円前後を推移している。ちなみに密売元の暴力団の 仕入れ価格は1グラム8〜9千円程度だというから、上手く捌ければぼろ儲けという ことだ。 「ほう……たいした量だな」 「もちろん、混じりけなしの本物ですよ」 「どうすればいいのだ。取り引きの場所は?」 「そうですねえ……。お台場にある船の科学館「羊蹄丸」のマジカルビジョンシア ターにしましょう」 「船の科学館羊蹄丸のマジカルビジョンシアターだな。日時と目印は?」 「日時は……」  取り引きに関する諸用件を伝える。 「わかった。必ず行く」  というわけで、局長を丸め込むことに成功して、電話を切る。 「やったな。後は奴が本当に乗ってくるかどうかだな」  そばで聞き耳を立てていた敬が、ガッツポーズで言った。 「乗ってくるわよ。何せ覚醒剤横流しの件を知っている人物を放っておけるわけない じゃない」 「そうだな」 「というわけで、課長」 「判っている。覚醒剤のほうは手配しよう。しかし5700グラムとは、ちょっと多 すぎやしないか?」 「だめですよ。撒き餌はたっぷり撒かなくちゃ釣りはできませんよ。それくらいじゃ ないと、局長本人が出てこない可能性がありますからね」 「判った。何とかしよう」 「お願いします」
刑事ドラマやアニメなどで、白い粉をペロリと舐めて「麻薬だ!」というシーンが登 場しますが、あれはフェイクです。万が一「青酸カリ」だったりしたらあの世行きで すから、麻薬取締官や司法警察官はやりません。 名探偵コナン「ピアノソナタ月光殺人事件」やシティーハンター「冴子の妹は女探偵 (野上麗香)」の回などが有名ですね。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11