特務刑事レディー (響子そして/サイドストーリー)
(二十三)平穏な日々  待ち合わせの場所で合流する。 「へえ、局長の慌てふためく様を見たかったな」 「俺が狙撃のプロ集団である特殊傭兵部隊にいたことや、ニューヨーク市警狙撃事件 のことを話したからな、自分もいつ狙撃されるかと冷や冷やしているかもな」 「罪な人ね。その気はないんでしょ?」 「ニューヨークの事は、おまえが死んだという報告書をみての復讐だったからだ。あ の頃は心が荒んでいたからな。正義感もどこへやらだった。しかし生きているなら罪 を重ねる必要はないさ」 「うん。わたしはあなたが人を殺すところを見たくないわ」 「しかし、俺の手は血に汚れてしまったからな。あの時以来……」 「わたしが、元の敬に戻してあげるわ。大丈夫よ、愛があればね」 「そうか……」 「あら、わたしの言うこと信じてないわね」 「信じてはいるけど……」 「もう弱気ねえ。じゃあ、こうすればどう?」  というなり、いきなり敬に抱きつく真樹。 「お、おい。人前だぞ」  通行人が二人を怪訝そうに見ながら通り過ぎていく。 「気にしないわ。恋人同士なら恥ずかしがることない」  そして唇を合わせてくる。 「どう? これで信じてくれる?」  長い抱擁の後に、潤んだ瞳で囁きかけてくる真樹。 「わたしは、どんな時でも敬を信じているわ。ニューヨークの街角で逃げ惑いながら、 凶弾に倒れても、 『いいか、おまえも最期の最期まで、生きる希望を捨てるなよ。簡単に死ぬんじゃな いぞ、俺が迎えにくるのを信じて、命の炎を絶やすんじゃない』  と言ったあなたの言葉を信じて、必死で生き延びようとした。だから奇跡の生還を 果たすことができたの。先生もほんとにおどろいてらっしゃったけど」 「黒沢先生か?」 「そうよ。この愛であなたの心を癒してあげる」 「わかったよ。真樹の言うことを信じるよ」 「うん……」  生死の境を乗り越えて生き延びてきた二人に、障害というものは存在しなかった。  数日後のことである。  駅近くで落ち合う二人。 「ご両親はどうだった?」 「あはは、生きて俺が帰ってきて、目を丸くしてた。でも涙を流して喜んでくれた よ」 「でしょうね。心配掛けさせたんだから、これからはちゃんと親孝行しなくちゃ」 「じゃあ、そろそろ行こうか」 「う、うん……」 「どうした? 気乗りがなさそうだな」 「ほんとにいいの?」 「当たり前じゃないか。交際するなら、ご両親にちゃんと挨拶するのが筋だろう。大 切なお嬢さまなんだからな」 「お嬢さまか……」  今日は、真樹の両親に敬が会いに行く日であった。  交際していることを正式に了承してもらおうというわけである。 「だいたいからして、俺は警察官なんだぜ。影でこそこそやるのは嫌いだ」 「そうだよね」  最近の警察官の不祥事は頻発しているが、この敬という男は根っからの正義馬鹿と 呼ばれるほどの性格をしている。だから交際するにもちゃんと両親の承諾を受けてか らと考えているわけである。 「昇進もしたしね」 「うん……。良かったね」  ニューヨーク研修を無事終了したという事で、敬は巡査部長に昇進していた。 「局長は何か動いてる?」 「いや、まだ表立った行動は取っていないようだ。ニューヨークから無事に帰還した ことと、傭兵部隊で腕を磨いたということで、用心しているんじゃないかな。でも水 面下では用意周到に手はずを整えているかも知れない。闇の中で蠢く溝鼠のように ね」 「たぶんね」
     
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