特務捜査官レディー・特別編 (響子そして/サイドストーリー)
(二十二)生活安全局局長  生活安全局とは。  拳銃などによる犯罪を取り締まる「銃器対策課」  覚醒剤などの薬物の乱用・密売などを取り締まる「薬物対策課」  その他、住民の生活に関わる全般的な犯罪などに対処する部署である。  通路の一番奥まった所にその局長室はあった。  この際遠慮などいりはしない。  面会の予約など糞食らえだ。  構わずドアを開けて中に入る。 「何だ、君は?」  敬の顔を忘れているようだった。  所詮、一警察官の事など眼中にはないというところか。  多少なりとも覚えておいて欲しかったものだ。  「もうお忘れですか?」 「ん……?」 「二年前に、麻薬銃器の捜査研修目的でニューヨークに出張を命じられた沢渡敬です よ」  さすがにそこまで言われると思い出さざるを得なかったようだ。 「さ、沢渡だと!」 「殉職したと思いましたか?」 「そういう報告をニューヨーク市警から貰っている。遺体は組織の手で処分されたと ……」 「そうですねえ。殉職したあげくに、闇の臓器密売組織に渡った……でしょう?」 「そ、そうだ……」 「しかし、私は生きてここにいます。特殊傭兵部隊に紛れ込んで命を永らえたんで す」 「傭兵部隊だと?」 「人質事件救出の突撃隊や要人警備の狙撃班として駆り出される部隊ですよ。おかげ で狙撃の腕はプロフェッショナルになりましたよ。そうだ! 一応報告しておきまし ょうか。沢渡敬は、ニューヨーク市警における麻薬銃器捜査研修の出張から戻って参 りました」  と、敬礼をほどこしながらとりあえずの報告を終わる。 「ああ……。ご、ごくろうだった」 「戸籍回復、及び職務復帰手続きとかを課長がやってくれるそうです」 「そうか、私からも言っておくよ」 「そりゃどうもです」 「佐伯君はどうなんだ?」 「亡くなりましたよ。私の目の前でね」 「残念だったな」 「そうですね。やっかいな二人のうちの一人を処分できたんです。黒幕は少しは安堵 したことでしょう」  黒幕という言葉を使って、やんわりと核心に触れる敬。 「黒幕とはどういうことだ?」 「言葉通りですよ。俺達の命を狙った犯行の首謀者のことですよ」  敬の思惑を測りかねて口をつむぐ局長。  軽率な発言をすれば揚げ足をとられるとでも思ってのことだろうと思う。 「それからニューヨーク市警の署長は、何者かに狙撃されて死んだそうですね。ぶっ そうですよね。ニューヨークってところは。毎日どこかで殺人が起きているんですか ら」  その口調には、それをやったのは自分だという意思表示が現れていた。 「ああ、お忙しい身でしたよね。今日のところは、これでおいとましましょう。これ から家に帰って、両親に無事な姿を見せてやりたいですから」 「わかった。気をつけて帰ってくれ」 「それでは、突然押しかけて申し訳ありませんでした。一刻も早く報告しようと思っ たものですからね。では、失礼します」  敬礼して、くるりと踵を返し、部屋を退室する敬だった。 「気をつけて帰ってくれか、よく言うぜ」  吐き捨てるように言いながら、 「さて、局長が刺客を手配する前にとっとこ帰るとするか」  と足早に局長室を後にした。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11