女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-3  どうしようかと悩んでいると、ドアがノックされた。 「誰ですか?」 「あなたが面接を受けた店のマネージャーです」 「え?」  あわててドアを開けて確認すると、確かにあの女性マネージャーであった。  自分をこんな身体にした張本人の登場だ。 「入っていいかしら」  玄関で微笑みながら尋ねる。 「ど、どうぞ」  もちろん断るはずがない。  事の成り行きを聞く必要がある。  マネージャーは部屋に入ると、 「お茶を入れましょう」  というとまるで自分の部屋であるかのように、お茶の葉や急須類を取り出してきて、 テーブルに並べた。どうやらこの部屋の事はすべて知り尽くしているようだ。 「ああ、おいしい」  と一服に感嘆する。 「あなたがおっしゃりたいことは判ります。今から、それを説明しましょう」  ことりと音を立てて湯飲みをテーブルに置いて、 「まず、あなたの身体の現状についてです。あの日、お出ししたお茶には睡眠薬を入 れてありました。眠ったところで待機していた医師によって、睾丸摘出の手術を施さ れました。そして終了後、この部屋に運びこまれたのです」 「やはり睡眠薬が入っていたのか……」 「この業界ってのは、その系統の雑誌の取材も多いの。店としても、絶好の広告と収 入増になるから断り切れない。しかし、店子が人気投票のランクに載ったり、表紙を 飾ったりなんかすると、スカウト合戦が始まって、より高給な店に取られてしまいま す。お客の接待というものは、一朝一夕で身につくものではないわ。手取足取り教え ながら十二分に時間を掛けて教育し、やっと常連客がついたと思った頃に、その客ご と他店に持っていかれたら、元も子もない。わかるでしょ」 「何となくわかります」 「雑誌の人気投票のランク付けに入りながらも、せっかく育て上げた店子を、絶対に 他店に引き抜かれないために、これはという店子には発信器をつけて他に行けないよ うにしているの。あなたのお顔がとっても素敵だったから、いずれ店一番の売れっ子 になると思いました。だからぜひ当店に欲しかったし、他の店に取られたくなかった。 だから、手術しました。あなたには悪いと思いましたが」  悪いもなにも最悪の行為じゃないか。まるでおもちゃを扱うように、人の身体を無 断で勝手にいじりまわして、二度と元に戻らないようにしておいて、おまけに逃げ出 さないように発信器を埋め込む。悪いじゃ済まされる問題じゃない。 「もちろん給与はちゃんと支払います。この店に来た時に契約した額をです。ただし、 この部屋の賃料と衣装代は差し引きます。衣装ダンスの中は見ましたか?」 「ああ、ドレスと下着類が入っていた」 「衣装は自由に使ってください。お店に出る時のドレスと、外出用のスーツが入って います。もちろんその衣装代は月割りにしてお給料から差し引かせていただきます。 これがその明細です」  といって明細書をくれた。
     
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