第七章
Ⅰ 奴隷星アンガス  とある惑星の鉱石採掘場。  銃で武装した兵士達に囲まれて、多数の奴隷達が鉱石採掘を強制されていた。  ここはケンタウリ帝国ゴーランド艦隊運営の捕虜収容所だった。  というのは名目的で、実際は国際捕虜条約に違反して、捕虜を束縛して重労働 を課し奴隷化していた。  精気なく作業を続ける捕虜の男性たち。  女性たちは、調理室などで看守や捕虜たちの食事や衣服などを作らされ、さら には看守たちの慰め者にもされていた。  その中に、ここへ連れてこられたばかりのヴィクトリア号艦長のアンドレ・ オークウッドもいた。  慣れない作業に、ふと息をつくアンドレ。  すると、すかさず兵士がやってきて鞭を振るう。 「何をしているか! 休む暇があったら働け!」  鞭を打たれて、キッ! と睨みつけるが、 「何だ? その顔は。貴様らは奴隷だ。黙って、身体を動かしているだけでいい んだ。分かったら、さっさと働け!」  さらに鞭が飛ぶ。  その鞭を左腕で絡めとるようにして奪い取るアンドレ。  反撃態勢を取り、逆に鞭を相手に向かって振ろうとした瞬間だった。  銃声が鳴り響き、鞭を持つアンドレの腕を銃弾が打ち抜いた。  苦痛に顔を歪ませて、鞭を手から落としてしまう。 「何をしているか!」  銃を構えた別の兵士が駆けつけてくる。  さらに抵抗しようとするアンドレに向かって、銃底で頭を殴りつける。  その場に崩れ倒れるアンドレだった。  医務室。  椅子に腰かけ、治療を受けているアンドレ。 「若いね、君は」  アンドレの腕と頭に包帯を巻きながら、アンドレに向かって諭す医者。 「一応治療はするけど、こんなことが続いたら身が持たないぞ」  生かさず殺さず。  捕虜収容所という名ばかりの奴隷星。  あるとすれば捕虜交換であろうが、最後の砦であるトラピスト連合王国も降伏 させた現在、解放されることはないだろう。  治療を終えて医務室を出ると、兵士が待ち受けていた。 「独房入りだ」  手錠を掛けられて独房へと連行される。 「今夜は飯抜きだ! 大人しく従っていれば、食事は働いた分だけ出る」  ガチャリ!  と扉が閉められ、兵士が去ってゆく。  一人となり、壁際に腰を下ろして物憂げに考え込むアンドレだった。  翌日、朝食抜きで労働に駆り出されるアンドレ。  採石場から鉱石を乗せた手押し車を押して、集積場へと運んでいた。  その入り口で声を掛けられた。 「昨日はよくやったな。あいつ、監視不注意で減俸になったらしいぜ」 「もう少し手が早ければ、あいつに鞭うちできたのにな」 「残念だな」  口々に労いの言葉を投げかける捕虜たち。  そうやって言葉を出せる者は、ここへ連れてこられて日の浅い人々に限られる。 数年も経てば精神疲れ果てて無言の境地に陥ってしまう。  ある夜の独房。  相も変わらず兵士とひと悶着を起こして幽閉されているアンドレ。  コンクリート床に寝そべって、明日のために体力回復せんと眠っていた。  と、廊下の方から足音が近づいてくる。  カチャリと音がして、扉が開けられる。  起き上がって身構えるアンドレ。  入ってきたのは見知らぬ女性だった。 「警戒しないでいいわ。私はあなたの味方です」 「味方? 守衛はどうしたのですか?」 「少し眠ってもらっています。しばらくは起きないでしょう」 「あなたは何者ですか?」 「私の名前は、イブです」 「イブ?」 「ある時は戦闘艦に配属された乗員、ある時は王族に仕える召使い、そして今は 捕虜収容所に潜入した工作員というところです」 「工作員?」 「はい。わざと捕まってここへ来れるように小細工をしました」 「優秀なんですね」 「それほどでもありませんよ。それより、あなたに手伝って貰いたいのです」 「手伝う?」 「実は、味方の船が捕虜解放のために、この惑星に接近しつつあります。しかし、 強力な防空バリアーが張られていて近づけないのです」 「分かりましたよ。そのバリアーの動力源の破壊工作を手伝ってくれということ ですね」 「さすが読みが早い、艦長を任されるだけありますね。アンドレ」 「どうして僕の名前を?」 「工作員ですから、容易いことです」 「そろそろ時間ね」  と呟いたと思うと、しばらくしてから所内に警報が鳴り響いた。 「仲間が騒動を起こして、守衛達の注意をそちらに向けさせているのよ」 「その隙をついて、動力源にたどり着くというわけか」 「そういうこと」  所内が慌ただしくなり、守衛が騒動の元へと集まっているようだった。 「行くわよ」  促されて、独房を出るアンドレ。  騒がしくなった所内通路を忍び足で動力源へと向かう。  時折出くわした守衛を麻酔銃で眠らせながら突き進み、動力源の手前までたど り着いた。  さすがに重要施設だけあって、研究員と銃を持った警備員が多数いた。 「どうする?」  アンドレが小さな声で尋ねる。 「大丈夫です」  と、言いながら手首に巻いていた時計のようなもののスイッチを入れた。  所内で銃撃戦が始まっていた。  捕虜達が、どこからか手に入れた銃を持って、守衛達と撃ちあいをしている。  倒した守衛の持っていた銃を奪って、さらに先へと進む。  そのリーダー各と思われる人物の手首の端末が鳴った。 「よおし、場所を変えるぞ!」  リーダーの合図で、捕虜達が移動を始める。  目指すは、動力源である。  動力室前で息を潜めて待機する二人。  やがて反対側の通路から騒ぎが起こる。 「どうしたんだ?」  守衛が通路をのぞき込む。  そこへ伝令が駆け込む。 「奴隷どもが、この動力室に殺到しようとしています。応援頼みます」 「分かった。行くぞ!」  と仲間に合図をして、守衛が通路へと向かった。  様子を伺っていたアンドレ。 「加勢がいたのか?」 「その通り。さあ、今のうちに仕事をするわよ」 「分かった」  室内に残っていた武装していない職員を、麻酔銃で眠らせるのは簡単だった。  操作盤に取り付いて操作するイブ。 「よし、これでいいわ」  悲鳴のような作動音を立てて、動力が停止したようだ。
     
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