第六章
Ⅱ 奴隷解放  奴隷惑星に近づく宇宙船アムレス号。  船橋のスクリーンには、バリアーに包まれた惑星が投影されている。 「工作員からの連絡は?」  エダが質問する。 『アリマセン』  ロビーが応える。 「そう……。どうやら動力炉の切断には、まだ成功してないようね」  信号が入った。 『下カラ連絡入リマシタ。動力ノ切断ニ成功!』  と同時に、前方の惑星の周囲に張り巡らせられていたバリアーが薄れてゆき、 やがて消失した。 『バリアー、ノ消失ヲ確認!』 「微速前進、衛星軌道に進入しろ」  アレックスが下令する。 『了解、微速前進、衛星軌道ニ進入シマス』  ゆっくりと動いて、惑星の軌道上に乗るアムレス号。 「軌道爆雷を投下して、航空基地を叩け!」 『了解、地上ヲスキャン、シテ航空基地ヘノ軌道爆雷投下シマス』  捕虜を収容するには、大気圏突入しなければならず、基地からのミサイルや戦 闘機迎撃ができないようにするためである。  軌道を一回りしてから、航空基地への爆雷攻撃が始まる。  地上の各所の基地が真っ赤に炎上する。 「大気圏突入しろ」 『突入シマス』  大気圏に入ると、前方から戦闘機が向かってきた。  爆雷攻撃を受ける前に、緊急発進したものと思われる。 「キニスキー大尉達にまかせよう」  艦内スピーカーが警報を鳴らし、キニスキー大尉達の緊急発進命令を流してい た。  控室で携帯食料を頬張っていた大尉が立ち上がる。 「俺らの出番か! みんな急げよ」  他の仲間を促して、発着場へと走る。  各自割与えられた戦闘機に搭乗してゆく。 「総員搭乗した。ゲートを開けてくれ!」 『了解』  発着口が開いていき、戦闘機が勇躍飛び出してゆく。 「久しぶりのドッグファイトだ。みんな気を許すなよ」  通信を入れると、 『へいへい。まかせろよ。そちらこそ、腕がなまっていないだろうな』  という答えが返ってくる。 「いい返事だ。行くぞ! アタックだ!」 『了解!』  迫り来る戦闘機群に向かってゆくキニスキーらの戦闘機。  一方、収容所内では友軍来訪とみて、歓声を上げながら守衛に対して攻撃を加 えていた。  動力炉では、電源シャットダウンに成功したアンドレとイブが次の行動に移っ ていた。 「飛行場へ向かいます」  イブが率先して飛行場へ続く通路を駆け出す。  アンドレも遅れずに着いてゆく。  途中、守衛と鉢合わせし銃撃戦となるが、無事に飛行場にたどり着いた。  今まさに、巨大な船が降下しているところであった。  その船からは、収容所の銃座への攻撃が続いている。  その降下地点付近に向かって、捕虜達が男女入り乱れて駆けてゆく。  舞い降りてくる船を見上げながらアンドレが尋ねる。 「自分もあの船に乗れるのか?」 「そうです。捕虜達も連れていきます」 「分かった」  アンドレも船に向かって走り出す。  一目散に船に向かって駆け寄る捕虜達に対して、収容所側も最後の足掻きを見 せて、一斉掃射の銃撃を開始した。  次々と倒れる捕虜達だったが、アムレス号から援護の砲撃が始まる。  何とか乗船口にたどり着くアンドレ。 「みんな急げ!」  後続の捕虜達に急かせるアンドレ。  次々と到着する捕虜達と握手を交わしながら船内へと迎え入れる。  肩を負傷した捕虜がヨタヨタと乗船してくる。 「大丈夫か?」  アンドレが声を掛けると、 「大丈夫だ。俺が最後だと思う」  と息を切らしながら答える。  収容所の方を見ると、もはや誰も出てこなかった。  出遅れた者もいるかも知れないが、いつまでも待っているわけにはいかない。  援軍の艦隊が向かってきていることもある。 「扉を閉めます」  イブが開閉弁を操作して扉を閉じた。  さらに傍の端末で連絡を入れた。 「こちら格納庫乗船口。全員搭乗しました。離陸お願いします」 『了解。離陸シマス』  機械調の音声での返事があると、船体はゆっくりと上昇を始めた。 「助かったあ!」  歓声を上げる人々。  抱き合って喜ぶ者もいる。  そして先輩ともいうべきアレックスの仲間達が拍手で出迎えた。 「責任者に合わせてくれないか」  アンドレが近くの年配者に尋ねた。  彼は、インゲル星での脱獄を主導し、アレックスを助け出した老人だった。 「君の名前は?」 「アンドレ・タウンゼントです。オリオン号の元艦長です」 「艦長だと?」  とイブの方を向いて、彼女が首を縦に振るのを見てから、 「それは都合が良い。君には乗組員の指導と監督をお願いできるかな?」 「私でよければ」 「分かった。この船の主に会わせてあげよう。着いてきてくれ」  というと、先に立って歩きだした。  船内の隅にあるエレベーターに乗る。  たどり着いた先は、どうやら船橋のようであった。  正面に大きなパネルスクリーンがあり、操舵士席や通信士席などが並んでいる。  その後方、部屋の中央の席に指揮官と思われる人物が座っている。 「トラピスト星系連合王国旗艦オリオン号の元艦長、アンドレ・タウンゼント殿 をお連れしました」  その声に反応するようよに立ち上がり、こちら側に振り向く指揮官。 「やあ、お勤めご苦労様でした」  あまりにも若い指揮官に意外な表情を見せるアンドレ。 「あなたがこの船の指揮官ですか?」 「そういうことになっています」 「?」 「この方は、トラピスト星系連合王国クリスティーナ女王の第三王子フレデリッ ク様のご子息のアレックス殿下です」 「女王様の公孫であらせられると?」 「いかにも。囚われの身である女王様をお救いせんと、みはたを掲げて活動され ていらっしゃるのです」 「了解しました。自分もぜひお仲間に入れてくださいませんか?」  アンドレが願いを申し立てると、 「無論です。仲間は一人でも多い方がいいですからね。あなたには、船長として 乗組員を取りまとめていただきましょう」 「ありがとうございます」  格納庫では、乗船した人々に対して、船内における役割分担を決めていた。  各人の職歴を聞き取って、前職で機関要員だったものは機関室へ、戦闘機乗り は船内にある戦闘機の割り当てなどを行っていた。 「戦闘機に乗るのはいいが、パイロットの人数より、戦闘機の数が全然足りてい ないじゃないか」  不満を述べる者もいた。 「それは心配ない。この後、戦闘機の置いてある秘密基地に向かうことになって いる」 「秘密基地があるのか?」 「詳しくは知らないがな」 「知らないのかよ」 「すべてはエダさまが知っている」 「エダ?」 「アレックスさまの相談役ということらしい」  船橋内。 「総員、配備に着きました」  エダが報告する。 「分かった。予定通り、アンツークに向けて出発しろ!」  アレックスの下令にオペレーターが応える。 「了解しました」 「進路、アンツーク星。微速前進!」  ゆっくりと進路を変えて、アンツーク星へと進路を取るアムレス号。
     
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