第五章
Ⅰ 全軍戦闘配備!
惑星都市アルデラーン、ロベスピエール侯爵廷。
特命全権公使の報告を受けている侯爵。
「和平交渉が決裂しただと?」
「御意にございます。親書を読み上げている最中に、いきなり中断させられました」
「なんてことだ・・・なんてことだ・・・」
頭を抱える侯爵。
「奴は、あくまでも戦争継続しようというのか?」
宣戦布告した側の侯爵の言うことではないのだが、臣下の者達には口答えは許され
ていない。
「いかがなされますか?」
「向こうが諦めないのなら戦うしかないだろ! 我が艦隊の戦力は?」
「戦艦デヴァステーションの他、駆逐艦八隻です」
「相手が何隻いようとも、ロストシップだけに集中攻撃を仕掛ければ何とかなるだろ
う。奴さえいなくなれば敵艦隊も崩壊する」
そう簡単にいくのだろうか?
思いつつも戦艦デヴァステーションの司令官に連絡する臣下。
通信用パネルスクリーンに投影されるアーネスト・カルヴァート中将。
「侯爵様のご命令だ。ロストシップを攻撃せよ! 全艦で一斉に当たれば撃滅できる
だろう」
命令を伝えるが、
『お断りいたします』
と司令官は拒絶した。
「なんだと! 命令違反をするのか? 敵前逃亡罪で死刑にするぞ」
『できるならばやってくださいよ。負け戦には従軍したくありません。この戦争は伯
爵側が勝ちます。あなた方の方が敗戦処理で戦犯者として処断されるんじゃないです
か?』
「言わせておけば言いたい放題」
『私自身はともかく、部下達を無駄死にさせたくないですから。おっと、伯爵から通
信が入りました。では』
通信が途絶えた。
「どいつもこいつも裏切りよって……」
侯爵はいきり立った。
敵艦隊が迫っているのに、迎撃できる艦が一隻もない。
「どうすればいいんだ……」
頭を抱える侯爵。
「大丈夫ですよ。宇宙はともかく、地上の陸海空の軍隊は健在です。宇宙の制空権を
取られても、地上部隊なしでは我が国を攻略するのは不可能です」
「そ、そうだな。本土決戦で勝負ということか……」
「手配します。陸海空軍に迎撃命令」
地上基地では警報が鳴り響き、兵士達が駆けずり回っている。
空軍基地。
戦闘機が発進準備を行っている。
陸軍基地
衛星軌道攻撃可能なミサイルサイトが開いて空を仰ぐ。
宮殿や放送センターなどの重要施設を取り囲むように自走高射機関砲が並べられた。
海軍基地。
防空兵器を装備した艦艇が戦闘配備に入っていた。
五時間後の官邸。
「全軍、戦闘配備完了しました」
国防大臣が報告する。
「そ、そうか。これで奴らを撃退できるな」
侯爵の問いに、
「大丈夫です」
答えたものの、その心情は複雑だった。
そもそもが平和ボケした軍隊で戦争の経験などない。
その上に、装備の更新もほとんど行われないために旧式のオンボロという散々な状
態であった。
「それは良かった。それで大臣……」
近くに寄れという手振りをする。
「なんでございましょうか?」
近づいてみると、耳元で囁かれる。
(例の船の手配は大丈夫だろうな?)
他の者に聞こえないような小さな声で尋ねる侯爵。
(ご心配いりません。確保してあります)
(そ、そうか。助かった)
安堵する侯爵だった。
実は万が一を考えて、惑星脱出用の船を手配していたのである。
他の者に聞こえないように尋ねたことからも分かるように、身内だけで脱出する考
えのようであった。
(どうせ逃げられないのに)
と思って素直に手配していた国防大臣だった。