第三章
Ⅳ アムレス号発進!
惑星サンジェルマン、ハルバート伯爵の宮殿謁見の間。
侍従長が興奮気味に報告している。
「ロベスピエール侯爵より宣戦布告が発せられました。これより両国は戦争状態に入
ります」
どうしましょう、と困り顔だった。
「いいじゃないですか。手間が省けました」
「なんですと! 呑気なことを」
「侯爵は元々この星を手に入れるつもりだったようです。令嬢の誕生日に子息を連れ
てきたのも政略結婚が目的で、うまくいけば自動的にこの惑星が手に入りますからね」
「はあ……確かに自分も薄々感じていましたが」
「ともかく応戦準備に入ろう。参謀長、この国と侯爵の戦力を教えてくれ」
「はっ!」
返事をして、アレックスの前に進み出る軍部の参謀長だった。
「まず我が国は、駆逐艦十二隻、軽巡洋艦四隻、国境警備艦八隻です。続いて侯爵の
方は、戦艦一隻、巡洋艦二十四隻、駆逐艦八隻、です」
双方の戦力差を報告する。
「二倍差ということですか」
「左様です」
「仕方ないな。まずは全軍に臨戦態勢を取らせてくれ」
「はっ! かしこまりました」
「士官学校の校長に繋いでくれ」
数日後。
宇宙空港に駐機しているアムレス号の搭乗口前に整列している士官学校生。伝説の
ロストシップが珍しく、チラチラと眺めてはため息をついていた。
「俺らこいつに乗れるんだよな」
「凄いな、わが軍が所有する艦艇と比べれば、戦艦と哨戒艇くらいの差があるぜ」
ざわざわとしていると、
「静かにしないか!」
彼らと一緒に同行する教官が窘(たしな)めた。
やがて校長が話始める。
「本日をもって、ここに召集されたものを卒業扱いとし、全員少尉に任官させる」
おお!
やった!
という歓声が上がる。
息苦しい教練生活からの解放に喜んでいるようだ。
しかも赴任先が伝説のロストシップなら尚更のことであろう。
「ロベスピエール侯爵が宣戦布告してきたことは、君達も知っているだろう。伯爵様
は正々堂々とこれを迎え撃つ方針でいらっしゃいます。君達を繰り上げ卒業させて、
伝説のロストシップの乗員として招聘されたのだ」
一同が見上げてロストシップを見つめた。
「それでは、早速、乗船してもらおう」
校長が号令を掛けて、
「乗船!」
教官が復唱する。
教官を先頭にして、規律正しく乗船してゆく。
数時間後、教官に手渡された配置表を基に各自の持ち場へと着任した。
船橋内。
指揮官席に座っているアレックス、両脇にエダとカトリーナ・オズボーンが控えて
いる。
正面の巨大パネルスクリーンの真下に、副長デイミアン・オルコック、操舵手ジャ
レッド・モールディングなどの船橋要員が着席している。
「総員、配置に着きました」
副官に任命されたカトリーナが報告する。
「よろしい。では、行こうか。エンジン始動!」
アレックスが下令して、
「エンジン始動!」
カトリーナが復唱する。
「エンジン始動します」
機関長となったアルフィー・キャメロンがエンジンを始動させる。
このアムレス号は、ロボットのロビーを通じてすべてをコンピュータ制御で動かす
ことができるが、人の手入力によっても動かすことができる。
一分一秒を争うときにロビーがオーバーヒートなど起こされては一大事。
エンジンが始動して、船橋にその震動が伝わってくる。
「エンジン始動しました」
キャメロンが確認する。
「よし、浮上する。反重力制御アンカー解除」
「反重力制御アンカー解除。浮上します」
ゆっくりと浮上してゆくアムレス号。