第七章
Ⅰ 包囲  恒星TRAPPIST-1(トラピスト1)は、太陽系からみずがめ座の方角に約40.5光 年の位置にある赤色矮星である。その第四惑星が、かつてのトリスタニア王国の 首都星であるトランターである。  軍事国家ケンタウルス帝国に侵略されて王国は滅び、帝国の直轄領となってい た。  そんなトラピストにたどり着いたフォルミダビーレ号。 「流石に首都星に近づくのは無理だろうな。回り道してアンツーク星へ向かう」  迂回してアンツーク星へと舵を切るフォルミダビーレ号。  だが数時間後だった。 「前方に重力加速度探知しました。ワープアウトしてくる艦があります。その数 ……30!」 「なんだと!」  やがて次々と姿を現す艦隊。 「後方にも……囲まれました」  フォルミダビーレ号の周囲を、ケンタウロス帝国の艦隊が取り囲んでいた。 「敵艦隊より入電、停船せよ」  レンツォ・ブランド通信士が報告する。  アーデッジ船長を見つめるオペレーター達だった。  自分達は、海賊である。  国際法においては、海賊行為は死刑にあたる。  ギルドの方針でケンタウロス帝国内では海賊行為を行ってこなかったが、言い 訳にはならない。  だからといって、戦うことも逃げることも不可能だった。 「敵艦より高エネルギー反応あり!」  次の瞬間、一条のエネルギーが艦を掠め通った。 「ビーム兵器か、威嚇というわけだな」  船内のオペレーター達に諦めの表情が浮かんでいた。 「しかたないな……停船だ」  船長の命令で副長が応える。 「機関停止!」 「相手方より、ガスパロの名で通信が入っています」 「ガスパロだと!」  オペレーター全員が振り向いてブランドを見る。 「繋いでくれ」  モニターに海賊ギルド頭領のガスパロ・フォガッツィが現れた。 「よお、随分と遠くまで出向いたようだな。まさかそこまでたどり着けるとは思 わなかったぜ」 「何が言いたい」 「ここへ来るまで、どれほどの海賊行為を働いた? 共和国側では手配書が出て いるぞ。捕まった場合の処遇がどうなるか分かっているな」 「死刑ですな」 「分かっているじゃないか。あくまで共和国側においてだがな、犯罪者引き渡し 条例には両国は加盟していないからな。しかし、犯罪は犯罪だ。責任を問われる ことになるだろう」  無言のアーデッジ船長に、言葉を続けるガスパロ。 「例のアンツーク星には、今艦隊が派遣されており徹底捜査の上、基地などの形 跡があった場合は地下まで及ぶ絨毯爆撃が開始されるそうだ」 「なんだと!」 「まあ、諦めることだな」  通信は途切れた。  やがてフォルミダビーレ号乗員は全員拘束され、船も直近の惑星トランターへ と曳航された。  軍事法廷に連れ出されて即決裁判が行われた。  被告席に立たされているアーデッジ船長とリナルディ副長以下役職乗員達。 「アントニーノ・アッデージに死刑を言い渡す。その他の乗員は、流刑地にて終 身労働の刑に処す」  消沈する一同だった。 「なお、アントニーノ・アーデッジは国際放映による公開処刑とし、トリタニア 宮殿前大広場にて執行されることとする」  法廷内にどよめきが沸き起こった。  アーデッジ船長以下フォルミダビーレ号の乗員は、ケンタウロス帝国の庇護下 にある海賊ギルドに所属していた。  ギルドを脱退したことは、帝国にも叛乱の意思ありと判断されたようだ。  かつて、旧トラピスト星系連合王国が、ケンタウルス帝国に対して抵抗を続け ていた。数百年経た現在においても反乱の根はくすぶっている。  そのためにも、帝国に逆らうものは徹底排除の姿勢を見せつけるためにも公開 処刑が行われるのだ。
     
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