↑ Microsoft Edge image Creator AI生成 第三章
V 先見の明  宇宙を進むフォルミダビーレ号。  周囲にはケンタウロス帝国の艦艇の姿は見当たらない。 「本船を追跡する艦艇は見当たりません。振り切ったようです」  ルイーザが報告する。 「よろしい。本船の損傷報告せよ」 「損傷軽微、航行に支障ありません」  大きなため息をついてから、アーデッジ船長に向き直って、 「作戦終了。指揮権をお返しします」  軽く会釈をする。 「ご苦労様、流石だった。すべての船員を代表してお礼を言おう」 「恐縮です」 「疲れただろう。休息していいぞ」 「それではご厚意に甘えて休ませていただきます」  踵を返して退室扉の方へと歩いてゆくアレックス。  すると誰ともなしに拍手が始まり、全員が喜びを表現するように鳴り響いた。  アレックスが扉の向こうに姿を消すと、 「基地に帰投する。弾薬をかなり消費してしまったからな。補給が必要だ」  新たなる行き先を指令するアーデッジ船長だった。 「取り舵一杯! 基地に向けて転進する」  フィオレンツォ・リナルディ副長が復唱する。  アーデッジは副長に尋ねる。 「彼の采配をどう思った?」 「アレックス君の指揮のことですか?」 「そうだ」 「そうですね。士官学校を目指していたというだけに、戦闘指揮能力は素晴らし いものを持っているようです。重力や磁場とか硬い氷表面を利用しての跳弾とか、 この惑星の特徴を知り尽くして利用するとは流石です」 「おそらくこの惑星に到着した時から既に、万が一にも惑星戦になった時のこと を頭の中でシュミレーションしていたのだろう。そうでなければ、二つ返事で指 揮権移譲を引き受けるわけがない」 「先見の明というか、先読みに優れた才能ですね」 「ふむ。彼の作戦指揮能力は、ロストシップの戦力にも匹敵するかもしれないな」 「かもしれませんが、ロストシップは欲しいものです」 「それは当然だ」  海賊基地に舞い戻ってきたフォルミダビーレ号が、桟橋に係留されている。  海賊ギルド本部で、補給物資の申請を行っている主計科補給部長ファビアー ノ・エルコラーニ。  担当者が書類を差し出しながら、 「以上、一億二千万ギルになります」  と手続きを進める。 「分かった」  書類に署名をする補給部長。 「あ、それから医者はいるか?」 「医者ねえ……どこも引く手あまたですからねえ」  端末を操作して捜している。 「いましたよ。しかし、専門は精神科医(psichiatra)ですけどね。それでもよ ければ」 「怪我などの手当てはできるか?」 「まあ、応急処置くらいなら医学者の基本だからできますよ」 「いいだろう。その人を頼む」 「分かりました。後で船に行くように伝えておきます」 「よろしく頼む」  船橋に戻りアーデッジ船長に、補給の件を報告するエルコラーニ。  書類をパラパラと捲りながら、 「値上げしたのか? いつもより二割ほど高いじゃないか」  頭を抱えるように呟くアーデッジ。 「ケンタウロス帝国からの物資が滞っているらしいです。帝国側が国境警備を強 化したらしくて、輸送船の往来が制限されているのです」 「そうか……。海賊討伐もその一環というところか」 「しばらくは、ケンタウロス方面への遠征は控えた方がいいですね」 「残念だな」  商船などを襲撃する場合、三つの国家のどちらへ行けばより多く稼げるかとい うとケンタウルス帝国側である。  古代国家である地球を含有するオリオン腕とペルセウス腕を統治するケンタウ ルス帝国は古くから開発と交易が盛んだったことと、侵略国家であるために資源 が集中していたからである。  惑星国家サンジェルマンのあるたて・ケンタウルス腕にある各諸国はまだまだ 開発途上国に過ぎなかった。  そして、いて・りゅうこつ腕を統治するトリスタニア共和国連邦は、帝国の侵 略に備えて強力な国境警備艦隊を配置しているから近づくことも難しい。
     
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